負けてしまうと、どうしても「失点」に敗因を持っていきたくなる。特に前半終了間際、セットプレーからの失点となれば、悔いが残るのも当然だ。ゴールまで50mの距離から最初に放り込んできたボールは、いくら196センチのピシュルとはいえ、ヘッドで直接ゴールするのは難しい。必然的にセカンドボールの争いとなるのだが、そこでの予測と球際で相手にしてやられた。山岸智は悔しさで唇を噛み締めながら、「あの失点がすべて」と語っているが、確かにあってはならない失点だった。
だが、青山敏弘の見解を聞いて、考え方が変わった。広島は攻撃のチーム。点を取れなかったからこそ、負けたのである。特に前半、ほとんどチャンスをつくれなかった。ブニョドコルがビルドアップの段階でミスを連発し、ボールを自ら失っていたにも関わらず、である。ベンチで見ていた中島浩司も「チャレンジが少ない」と心配していた。
立ち上がり1分、岡本知剛からの縦パスが佐藤寿人に入り、石原直樹がシュートまで持ち込んだ。シンプルな形ではあるが、オープニングシュートを放ったことで、リズムが生まれるかと思った。だが、そこから広島の攻撃は停滞する。後ろでボールをキープしてもチーム全体の動きが少なく、パスコースが少ない。広島の情報を数多く収集し、研究に余念がないブニョドコルの守備は、確かに堅実。4バック+2ボランチで中央をしっかりと固めて守ることでスペースを消してきた。だが、そこを組織的な攻撃ではがすのが、広島ではなかったか。
後半、千葉和彦が積極的に縦パスを供給し、ドリブルで前にボールを運んだ。青山敏弘も前線を追い越さんとする動きを見せてブニョドコルのブロックを慌てさせた。49分、ピシュルとブラジッチのコンビネーションによって与えてしまった決定機を西川周作の好セーブによって防いで以降、広島は圧倒的に攻め立てる。リスクを顧みず、前へ、前へ。ウズベキスタンの雄は間違いなく慌てていた。ウズベキスタン代表GKであるネステロフの好判断によって、かろうじて持ちこたえている状態だ。
後半のように右サイドの石川大徳が積極的なアタッキングサードへの飛び込みを見せていれば、スピードのある左サイドのハサノフも、後ろに下がらざるをえない。山岸が仕掛ければ、正確なクロスを持つブラジッチも守備に回らなければいけなくなる。もちろん前がかりになれば後半に喫したようなカウンターからの失点の危険性も増大するが、そこは広島のような戦術をとるチームには表裏一体だろう。
この試合、森保監督は富士ゼロックススーパーカップからメンバーを入れ替えた。森崎兄弟と清水航平をベンチに置き、岡本・石原・山岸を起用する連戦仕様。それがチームとして大きな問題を生じさせていたか、と問われれば、答えはノーだ。もちろん、森崎和幸と同じようなゲーム全体を「調律」するプレーを岡本に求めるのは難しい。しかし、彼らしいダイナミックなプレーによって、森崎和とは違った形でチームに貢献したことは確かである。それは、石原にしても山岸にしても同様だ。
広島の敗因は、メンバーの変更ではない。前半、相手の出方をうかがうあまりに積極性を失い、チャンスをつくれなかったことだ。それが相手のサイド攻撃を活性化させてしまい、セットプレーを起点にとした失点の遠因にもなった。広島のパス回しは、十分にアジアの強豪相手でも通用する。塩谷司や水本裕貴の対人守備は、ウズベキスタン代表をそろえた相手であっても破綻することはなかった。だからこそ、「もったいない」という想いがぬぐえない。
この試合、ブニョドコルは広島に対して豊富な情報を持ち、一方の広島は彼らの新戦力に対してほとんど情報を持ち得なかった。特に右サイドのブラジッチはほとんど未知の状態で、そういう意味では立ち上がりの慎重さは仕方がない。だがそれが失点するまで続いてしまっては、闘いは難しくなる。49分に決定機を与えた後、86分に失点するまでシュートすら打たせなかった広島。攻守一体のサッカーにおいて、攻撃が最大の守備であることは、この時間帯が証明している。カウンターのリスクはあったとしてもなお、である。
ただ、初戦の敗戦が大きな教訓となり、広島らしいサッカーをアウェイの地でも発揮できれば、グループリーグ突破も見えてくる。昨年のACLで初戦に敗退しながらグループリーグを突破したチームは、アル・アハリ(サウジアラビア)と柏。ブニョドコルもホームでアデレード(オーストラリア)に敗れながら、最後はベスト4までのぼりつめた。アル・アハリにいたっては準優勝である。広島のアジアへの挑戦は、そういう意味でも始まったばかりだ。
以上
2013.02.28 Reported by 中野和也
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