プレシーズンマッチのちばぎんカップから3バックという新たなシステムに挑戦してきた柏だが、FUJI XEROX SUPER CUPも含めた2試合では、それが機能していなかったせいか、このAFCチャンピオンズリーグ初戦にてその3バックに手を加えた「変則的な4バック」(鈴木大輔)を採用した。
キックオフ直後は確かに3バックだった。それが試合が進むにつれ、増嶋竜也が左サイドに開き、キム チャンスが右サイドバックの位置まで降りる。その試合中の変更について、ネルシーニョ監督は「特に変更していない」と明言を避けたが、貴州の出方次第、つまりスカウティング通り中央に長身の選手を2枚並べて「後ろからシンプルに真ん中に蹴ってくる」(大谷秀和)場合は3バックのままでいくが、ズラタン ムスリモヴィッチを中央に置き、左右にウィンガーを配置したような3トップで来た場合は、前述の通り増嶋が左、キム チャンスを右にした4バックに変えるというのは、最初から決まっていたプランだったのだろう。
貴陽オリンピックスタジアムは異様な雰囲気に包まれていた。何の変哲もないボールが柏陣内に入るだけで、あたかもチャンスかのように貴州サポーターが盛り上がり、その声に後押しされたのか貴州が攻勢を仕掛ける。ただ「去年の広州でこういう雰囲気を味わっていた経験が今年に生きた。ブーイングとかも気にはならなかったですし、落ち着いて全員がプレーできていた」と大谷が振り返った通り、柏の選手はこの雰囲気に気圧されることなく、淡々とプレーを進めていた。そして「我々がボールをしっかり下で転がして攻めることができれば、相手の攻撃はカウンターとロングボールの単発しかないだろうと思っていた」(ネルシーニョ監督)と、柏がボランチを経由したビルドアップを進めていくと、その指揮官の言葉通り、貴州は徐々に自陣へと後退し、ムスリモヴィッチをターゲットにロングボールを蹴るか、奪ったボールをスピードあるサイドアタッカーに預け、カウンターに出てきた。
前半アディショナルタイム、試合が動く。ジョルジ ワグネルのクロスをクレオが頭で合わせ、一度はバーに阻まれたが、その跳ね返りをクレオ自ら詰めた。鳴り物入りで加入したストライカーの待望の柏初ゴールはACLという大舞台での貴重な先制弾だった。「ACLというのは少ないチャンスを決められるチームが勝つ」とまで言い切るクレオ、やはり千両役者である。
後半になるとビハインドを追う貴州がさらにパワープレーの色を強め、ロングボールの頻度が増したが、近藤直也を中心にした柏守備陣の出来は申し分なかった。中央へ入るハイボールは近藤と鈴木大輔が対応し、YU HAI、CHEN JIE、左右のアタッカーに対してもキム チャンスと増嶋が1対1の局面で負けなかったため、ズヴェズダン ミシモヴィッチの2本の直接フリーキックがバーを叩いただけで、押し込まれながらもしっかりと体を張った守備でゴール前ではしのぐことができていた。貴州が前がかりになっただけに、本来はカウンターで加点してリードを広げたいところだったが、ぬかるんだピッチ状況もあって、思うように前へのスピードが上がらなかった。
それでも途中からセカンドボールの対応に長けた栗澤僚一を投入し、フィジカルコンタクトの強い谷口博之をミシモヴィッチにマンマークさせるなどして、ネルシーニョ監督の的確な交代で守りを固めていった柏は、最後まで1点のリードを守り切った。
霧の影響で、筆者をはじめ多くの日本人メディアが今回の貴陽入りには相当苦労をさせられた。だが逆に、機能しない新システム、コンディションの上がらないクレオといった、これまで霧に覆われていた柏は、ようやくその霧が消え始め、合間から太陽の光が差し込むのが感じられるようになった。初のアジア制覇に向けて、柏はこの上ないスタートを切り、次はJリーグの開幕を迎える。
以上
2013.02.28 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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