ピンチとチャンスは隣り合わせ。それは流れの中で攻守が目まぐるしく入れ替わるフットボールでは良くあることなのだが、仙台は初挑戦のACLという舞台で、そのことを思い知らされることとなった。手倉森誠監督はブリーラム・ユナイテッド戦後の記者会見にて、「チャンスの中にピンチあり」という表現でこの試合の厳しさを語った。
気温2.9℃の寒さの中、前半は両チームとも攻撃にエンジンがかかるまで時間を擁する展開となった。それでも仙台は昨シーズンよりも細かい組み立てを多用して崩そうとする新しい攻撃のかたちを見せることはできたし、ブリーラムもサイドで仙台の攻勢を許すも、カウンターから突破口をうかがう。しかし「最初は固かった」(梁勇基)「前半はまだ思い通りに動けなかった」(アッタポル・プスパコム監督/ブリーラム)という両チームとも相手ゴール近くで精度と迫力を欠き、前半はスコアレスで終えた。
そして後半になると、ピンチとチャンスの入れ替わりが活発化する。仙台は前半に攻撃の距離感にずれがあったことの修正と「相手に迷いを生じさせる」(手倉森監督)という意図から、フォーメーションを4-3-3から4-4-2に変更。武藤雄樹と赤嶺真吾の2トップを中心に攻めこみ、決定機を作ることに成功した。しかし、カウンターを中心にブリーラムも鋭い攻めを見せたため、仙台は51分には平野甲斐(前富山)のヘディングシュートでゴールを脅かされる。このピンチをしのいだ仙台がさらにしかけたカウンターで、太田吉彰のクロスがブリーラムDFオスマル・バルバ・イバネスのハンドを誘い、仙台がPKを獲得した。「しっかり自信を持って蹴ることだけを意識した」という梁のPKが決まり、仙台が先制。その後も追加点を狙いにいくが、サイドでも中央でも揺さぶるかたちは作れどもシュートが入らず。そして今度は仙台のチャンスを返したカウンターからブリーラムが隙を突いていく。
仙台は新戦力の石川直樹、和田拓也を組みこんだ最終ラインを中心に大崩れはせず、流れの中での守備組織を機能させていたが、76分に与えたCKから失点を許した。スコアラーは192cmのイバネスによるもの。PKの借りは、同点ゴールで返された。スコアはこのままで動かず、仙台にとっては悔しい引き分けでのスタートとなった。
仙台が入っているグループEでは、この日に5-1で江蘇舜天に大勝したFCソウルがトップ通過候補と見られているが、だからといって他の3チームが互いに「勝てる相手」「勝点を計算できる相手」であるかというとそれはまた別の話だ。すべてが各国リーグのトップクラスなのだから。ブリーラムは昨年2月に仙台と親善試合で対戦したときよりも、さらに洗練されたチームになっている。この日は「ACLを経験しているブリーラムはアウェイの戦い方に慣れていると感じた」と手倉森監督に感じさせたようにカウンター中心の戦い方であったが、ボールを保持できる時間があると見ればスペイン人MF7番のカルメロ・ゴンサレスを中心に丁寧にボールをつなぐことができる。プスパコム監督は「今度の韓国のチーム(FCソウル)との試合ではできれば3点くらい取りたい」という自信を見せている。
初参加の仙台にとっては「試合前の準備のリズムも含め、Jリーグと違う新しい経験を重ねることになる」(石川直樹)という舞台となるACL。それは厳しいことも多いだろうが、この場で揉まれることで、チームはさらにレベルアップできる。それを予感させられるACL初戦だった。
以上
2013.02.27 Reported by 板垣晴朗
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