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後半アディショナルタイム、工藤壮人の逆転ヘッドがネットを揺らした瞬間、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場に吹きすさんでいた突き刺すような寒風ですら、心地よく感じられた。準々決勝の大宮戦は０−２とリードを許しながら、後半に３点を奪う劇的な逆転勝利で柏は４年ぶりの天皇杯ベスト４進出を決めた。アグレッシブかつ落ち着いたゲーム運びから土壇場で試合をひっくり返す勝負強さは、まるで昨シーズンの柏を見ているようだった。

ただし、「勝ったからよし」ということにはならない。
試合後、大谷秀和は「後半のような試合運びを前半からやらないといけない。そこは反省材料」と冷静に試合を分析し、不甲斐ない出来に終始した前半のパフォーマンスを反省した。このキャプテンの言葉が全てであろう。準決勝のポイントは攻守のバランスを保ち、焦れずに自分たちのペースで試合を運べるかになる。柏はレアンドロ ドミンゲスが３試合出場停止中の３試合目。攻撃の核が不在のため、中盤のパスワークやポゼッションという部分では、中村俊輔を中心とした横浜ＦＭの構成力に分がある。だからこそ柏には大宮戦の後半で見せたような、規律のある守備と攻守のバランス、そして何よりも焦らないことが重要視される。そういった戦い方さえできれば、大宮戦のように、または昨シーズン７度の逆転勝利を収めたように、先に失点したとしても自ずと勝利は転がり込んでくるはずだ。

準決勝では上記したレアンドロに続き、茨田陽生、橋本和も出場停止となる。レアンドロの不在は痛手だが、今シーズンは９月から負傷による長期戦線離脱で“キング”を欠く試合を数多くこなしてきたとあって、今となっては非常事態という雰囲気はない。レアンドロが不在なら、その穴は誰かが埋め、そのメンバーに見合ったスタイルで戦う。そして今回、その役割は水野晃樹が務めることになる。これに伴い、準々決勝で中盤右サイドに入った工藤は本職のＦＷに戻る。大宮戦での劇的決勝弾やポストプレーでの効果的な働きを見れば、工藤を前線で使いたくなるのは当然だろう。実はこの有言実行男、準々決勝の前にも「準々決勝から決勝戦までの３試合、最低でも１試合１点。３戦３発を決めたい」と彼らしく目標を公言し、実際に大宮戦でゴールを決めた。準決勝ではキャリア初となる国立競技場でのゴールを狙う。

茨田の欠場に関しても、栗澤僚一が怪我から復帰し、大谷との“不動のダブルボランチ”が復活するため問題は見られない。茨田のパスセンスを失う代わりに、栗澤のセカンドボール奪取力とリスクマネジメント能力が加わる。したがって、気になるのは左サイドバックを誰が務めるのか、という点だ。普通に考えれば福井諒司、あるいは藤田優人という選択肢になりそうだが、おそらく準決勝という大一番で百戦錬磨の智将・ネルシーニョ監督が動く。このところ監督の評価を上げ、度々試合に起用され始めた山中亮輔が抜擢される可能性が高い。
山中は兵藤慎剛とのマッチアップについて問われると、首を傾げ、苦笑いを見せつつも、「僕の持ち味は攻撃なので、ジョルジ（ワグネル）と絡んで仕掛けることで、相手のサイドを押し込みたい。守備も頑張りますけど、タニ君（大谷）がカバーしてくれるので、積極的に行きます」と溌剌としたコメントを発した。まるで、ドイツへ移籍した酒井宏樹が、試合に起用され始めた頃に述べた「僕の持ち味は攻撃。クリさん（栗澤）がカバーしてくれるので、レアンドロと２人で積極的に仕掛けたい」という言葉と瓜二つなのは、果たして偶然だろうか。しかも酒井がブレイクした発端の試合は、昨シーズン第１０節、国立競技場で行われた浦和戦だった。ネルシーニョ監督の慧眼は酒井のみならず、これまで工藤、茨田、田中順也といった若手のブレイクを促してきた。底知れぬポテンシャルを秘めたルーキー山中も、国立の地で同じアカデミー出身の先輩・酒井のごときセンセーショナルなプレーを期待したいところである。

選手入場時には黄色く染まるスタンドから「ＡＣＬ！ＡＣＬ！」の大コールが沸き起こるはず。前身の日立時代以来となる３７年ぶりの天皇杯優勝と、AFCチャンピオンズリーグ出場権獲得まで、あと２つ。

以上

2012.12.28 Reported by 鈴木潤