先週の4回戦、川崎F戦の再現フィルムを見ているようだった。前半開始から柏を圧倒し、2点をリードして折り返した大宮は、後半に入ると柏の猛攻の前に次々にゴールを割られた。そしてアディショナルタイムの逆転ゴール。一度はつかみかけていた国立への切符は、両手の間からこぼれ落ちていった。
両チームともに、いつもと違う形でのスタートとなった。大宮はボランチの金澤慎が出場停止で、約5カ月ぶりのスタメン出場となる上田康太がその位置を埋めた。柏は那須大亮をアンカーに起用した4−1−4−1のフォーメーションを採用。大宮の東慶悟とダブルボランチをしっかりつかまえ、高い位置からプレッシャーをかけてボールを奪い、攻撃につなげる意図が見て取れた。
開始から、柏のねらいがハマる。3分にジョルジ ワグネルが最終ラインまで降りていた渡邉大剛からボールを奪ってクロス。ファーで合わせた工藤壮人のシュートはサイドネットに外れた。6分には再び大宮の最終ラインからボールを奪い、縦パスを受けてターンした田中順也が正面からシュート。菊地光将のブロックしたボールを再び右から工藤が撃ち込むが、北野貴之に阻まれた。直後、大宮も返す刀でチョ ヨンチョルが東とのワンツーからペナルティエリア内で強烈なシュートを放つが、こちらも菅野孝憲がビッグセーブ。試合が激しく動き始める。
序盤の主導権を握っていたのは柏だったが、先制したのは大宮だった。中盤の底で最終ラインからボールを受けた上田が、左サイドのヨンチョルに展開。追い越した下平匠にボールを預けたヨンチョルは前方に猛ダッシュ。これに柏のディフェンスがつられ、左のバイタルエリアががら空きになった。そこに走り込んだ上田へ下平から「撃ちやすいボール」(上田)が送られ、その言葉通り上田が左足を合わせると、ボールはループ気味に逆サイドネットに吸い込まれていった。さらに2点目も左サイドから。ロングボールを収めた長谷川悠がヨンチョルに落とし、クロスはニアに飛び込んだ東の足の先を抜け、ファーポストで跳ね返り、ニアポストに当たってゴールに転がった。
柏の修正点ははっきりしていた。2列目の右に配置された工藤の守備意識が希薄で、アンカーの那須も中央は空けられず、ヨンチョルと下平を擁する大宮の左サイドの重圧を藤田優人が一人で受けることになった上に、その藤田自体の出来が「良くなかった」(ネルシーニョ監督)。右サイドの欠陥から全体に混乱が生じ、柏は完全にやるべきサッカーを見失った。逆に大宮は、こちらも怖い柏の左サイドをしっかり抑え、特にワグネルに対しては渡部大輔と、中に入れば青木が、外では渡邉が激しくマークして自由を与えなかった。
たまらずネルシーニョ監督は28分、藤田に代えて澤昌克を投入。右サイドバックに那須を動かし、大谷秀和と茨田陽生のダブルボランチにフォーメーションを変えるが、焼け石に水と思われた。完全に大宮は勢いに乗っていたし、「相手のダブルボランチにプレスに行くと、その裏を東君に使われ、行かなければボランチに自由にボールを受けられ」(大谷)と、逆に大宮を気持ち良くプレーさせる結果になった。ただ、大宮は気持ち良くプレーするあまりに、その後も訪れた何度かのチャンスを、オフサイドや攻め急ぎすぎ、逆に持ちすぎたりと、拙攻でことごとくフイにしてしまった。逆に前半終了直前、柏は攻め上がった那須のクロスから田中のヘッドがバーをたたく。大宮は、このシーンにもっと危機感を抱くべきだったかもしれない。
先週の川崎F戦での大宮と同じように、柏のロッカールームでは監督から激しい檄が飛んでいた。そして大宮も、先週と真逆の状況下で、ベルデニック監督は「試合はまだ終わっていない」と、先週と同じ言葉で選手たちを送り出した。
先週、自ら3点差を引っくり返した選手たちは、ましてや2点差はセーフティリードであるとは思っていなかったはずだ。ただし川崎Fと違い、大宮は守備的に戦う形を持っている。実際、後半の出だしは悪くなかった。低い位置で守備ブロックを形成し、再びアグレッシブに前に出てきた柏の攻撃をはね返す。ただし前半と違ったのは、そこからの攻撃が機能しなかった。「負けていたから点を取らなきゃいけないけど、3点目を取られたら試合が終わってしまう。だから3点目を取られないように、もう一度良い守備から入ろうと。東君を僕が見るようにして、茨田と澤さんを相手のダブルボランチにぶつけるようにした」(大谷)ことで、柏が再び主導権を握り返す。
そして54分の水野晃樹の投入が、大宮にとっては悪夢の始まりとなった。59分にコーナーキック後のカウンターから最終ラインの裏へ抜け出した澤にピタリと合わせ、1点目のお膳立てをした水野は、「相手の左サイドバックは攻撃的なので、その裏をねらっていた」という言葉の通り、大宮の左サイドにとって脅威となりつづけた。交代直後の自ら突破してのクロスを皮切りに、警戒を強めた下平を食いつかせて、その裏を澤や那須が突く。疲労の見えるチョ ヨンチョルが「守備で追いきれなくなった」(下平)ことで、危険なクロスが次々に供給された。
左サイドを完全に制圧されたことで、大宮の守備は完全にコンパクトさを失った。それでも最後のところは体を張って守ることはできていたが、83分に那須からのクロスがファーに流れ、ジョルジ ワグネルが再びクロスを送ると、増島に同点ゴールを決められる。単純なクロスであれば菊地光将と河本裕之が跳ね返せるが、ワグネルのクロスは完全に彼らのタイミングを外した。そのアイディアと技術の高さに脱帽するしかない。
残り約10分。完全に勢いに乗り、怒濤の猛攻を続ける柏。大宮は左舷に大穴を空けたまま必死に航行を続ける。延長までいけば、また立て直すことができるかもしれない。アディショナルタイムは3分。その90+3分に、またしても大宮の左サイドから那須が放ったクロスは、菊地の予測した軌道よりもわずかに曲がって落ちた。工藤が競り勝つ。逆転ゴールが左のポストをかすめ、北野はただ見送るしかなかった。
大宮にとっては、良くも悪くも上田が象徴した試合だった。前半は上田が自由にプレーし、自身も素晴らしいゴールを奪った。しかし後半、柏にそこをつぶされ、さらに左サイドの守備に奔走させられたことで、上田の良さは消えてしまった。彼だけの責任ではない。守備に長所を持つボランチの穴を、攻撃に長所を持つボランチを起用した時点で、大宮は受けに回ることはできなかったのだから。たとえ金澤がいても、結果は覆ったかどうか。それだけ後半の柏は素晴らしかった。
柏にとっては、水野に象徴される試合といえるだろうか。ケガもありここまで不遇のシーズンを過ごした選手が、劣勢を跳ね返す原動力となった。さらには那須にしても澤にしても、不動のレギュラーとは言い難い選手たちが、ここに来て最高の仕事をした。「このチームでゲームをするのは負けたら最後だし、今日はメンバーに入ってないけど、ヨンハさん(安英学)とも一日でも長くサッカーをしたいというのはみんなの中にあった」(大谷)という一体感が、逆転劇を支えていた。優勝そしてACLへ向けて勢いのつく勝利だったことは間違いない。
大宮の無敗記録は公式戦14試合で途切れ、同時に2012シーズンも終わった。タイムアップの瞬間、エース東は仰向けに倒れて両手で顔を覆い、しばらく座り込んだまま歓喜にわく柏の選手と、そのゴール裏を見つめていた。今季、こんなに悔しい負けはなかったし、シーズンの終わりをこんなに悲しく感じたことも、これまでなかった。それは一つの前進に違いない。この試合が、来シーズンの躍進へのスタートになることを信じている。
以上
2012.12.24 Reported by 芥川和久
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