自動昇格の最後の1枠と残留をめぐる争いが繰り広げられたJ2の最終節にあって、決して注目度の高いカードではなかったかもしれない。だが、双方にもこの一戦を譲れないモチベーションは確かに存在した。熊本は退任が決まっている高木琢也監督の花道を飾ること、そして愛媛は、過去1度もない、「得失点差をプラスでシーズンを終えて“歴史を変える”こと」(青野慎也コーチ)。他会場でキックオフ早々からスコアが動く中、終盤まで得点が生まれずにドローかと思われたゲームは、アディショナルタイムに入ってからの藤直也のゴールで愛媛が辛勝。87分に交代出場でJリーグデビューを果たしたルーキーが、自らの初得点で歴史を変えた。
熊本は、この5年間の中でもひときわ厳しい状況でホーム最終戦を迎えなければならなかった。甲府戦の直前に廣井友信が負傷し、福王忠世と藤本主税を出場停止で欠き、また原田拓と市村篤司も怪我のため欠場。「主力がいない状況の中、今の愛媛を相手に4枚でやるとボールを動かされてしょうがない。だから個人的な能力差は出るかもしれないけれど、マッチアップさせた方がハッキリする」と、高木琢也監督は27節の岡山戦以来、約3ヶ月ぶりに3-4-3の布陣を選択する。狙いは、前からプレッシャーをかけて高い位置でボールを奪い、素早く切り替えて「できるだけ直線的にゴールに向かう」(高木監督)ことだった。
しかし前半は、熊本のプレッシャーがはまらず、15分過ぎからは完全に愛媛ペース。トップの有田光希へ村上巧や赤井秀一からタイミング良く縦パスをつけ、シャドウの2人とサイドがうまくサポートに絡んでは熊本ゴールに迫る。22分には東浩史がドリブルで持ち込んで左足、35分には赤井のクロスに関根永悟、40分には左のコーナーキックから伊東俊と、チャンスを迎えながら枠を捉えきれない愛媛だったが、3バックもビルドアップに参加して熊本を押し込んだ。
これにより熊本は全体的にボールを奪う位置が低くなり、一方で攻撃に切り変えてからは縦へ急ぐ場面が多いために中盤で落ち着きどころを作れない状態。愛媛の効果的なプレスバックに挟まれてのボールロストや安易なパスミスも頻発して、攻撃でいい形を作れたのは30分の五領淳樹からのクロス、左サイドで片山奨典がえぐった38分、そして武富孝介のシュートがサイドネットを揺らした場面の3度ほど。遠目からのミドルやセットプレーのチャンスもあったが、ゴールを割ることはできずに折り返した。
後半に入ると高木監督が先に動く。五領を下げて崔根植をトップに入れ、齊藤和樹を右のシャドウへ動かすと、元々の身体の強さに加え、練習でもシュートの感覚が研ぎすまされていた印象の崔が高い位置でポイントを作り始める。その後、齋藤に代えて仲間隼斗を入れたことも奏功して徐々に熊本が流れをつかんでいったが、崔のキープからの64分の大迫希の右足、77分の仲間、78分崔、90+1分養父雄仁と、終盤にかけて立て続けに迎えた決定機は、GK秋元陽太を中心とした愛媛守備陣がことごとくブロック。耐える時間をしのいだ愛媛は逆に90+3分、前がかりになった熊本の隙を突いて前野貴徳がドリブルで運び、スルーパスに抜け出した藤が、遂にゴールを仕留めたのである。
「この8試合負けてないというのは選手の自信にもなりますし、それに満足するのではなくて、これを分析、評価、修正してやっていけば、来季につながると思います」と、バルバリッチ監督に代わって最後の2試合指揮を執った青野慎也コーチは話した。愛媛にとって決して満足のいく成績ではなかっただろうが、「チームとしてはいい終わり方ができた」(有田)のは確かで、次なるシーズンに向けて明るい兆しが見えていると言える。
一方、15勝10分17敗の勝点55、14位で5年目のJ2リーグ戦を終えた熊本は、リーグ最終戦として残念な終わり方になってしまったことは否定できない。けれどそうした試合の後味の悪さも、終わってみれば笑い飛ばせてしまえそうなのは、まだ天皇杯が残っていることに加えて、スタンドの雰囲気があまりにも素晴らしかったから。終盤に失点しても全く途切れないどころか、むしろ声量を増したチャントで後押しし続け、敗れても選手やスタッフを温かく迎え、勝利の後に恒例となった「カモン!rosso」でみんなが1つになって、リーグ戦を締めくくった。結果としてJ1昇格がかなわなくても、これからもずっと愛する地元のチームを支えていくんだという意思、そして「行けば何か楽しいことがある」と思えるスタジアムの雰囲気は、じっくり時間をかけて醸成されてきたもの。この3年間、7位、11位、14位と順位は下降したが、さらに上のステージへ行くために必要な土台を作り、そして足りない要素を改めて洗い出して少しずつでも前に進んできたのと同じように、それは熊本が誇れる文化として定着してきたのだと思う。
残るは天皇杯。準備期間の1ヶ月で、再びケガ人も戻ってくるだろう。名古屋を相手に今年取り組んできたサッカーを表現するべく、チームはまだ歩みを続ける。
以上
2012.11.12 Reported by 井芹貴志
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