前期の屈辱を晴らすまでには至らなかった前節の松本戦。16本ものシュートを放ちながら最後の部分のアイデアや連携、迫力を欠いて無得点に終わった攻撃面は、今節以降も引き続き高めていく必要がある。一方で守備では、立ち上がりこそスピードを生かした松本のシンプルな攻撃からシュートまで持ち込まれる場面があったとは言え、警戒していたカウンターのケアも含め、ゲームを通しては「リスクマネジメントができていた」（廣井友信）。

中２日というハードな日程は、４月末から続いたゴールデンウィークの連戦以来だ。日曜の夜に松本で試合に臨み、その晩名古屋まで移動して翌朝の便で熊本へ帰ってきた選手たちは、まだまだ厳しい日差しの元でリカバートレーニングを行った。そうした中にあって、栃木戦で負傷した北嶋秀朗が離脱（もっとも、トレーニング自体は別メニューで調整中）、また攻撃の軸となる養父雄仁が累積警告で出場停止という状況で迎える今節はまさに総力戦。迎える17位草津をはじめ、15位愛媛、16位福岡とも熊本は現在、勝点で並んでいるとあって、前節手にした勝点１を価値あるものにするためにも「この連戦で勝つ事が大事」だと、南雄太は口元を引き締める。短いスパンでの連戦でうまく流れを掴み、勝点の近いライバルを引き離したい。

ただ、熊本に乗り込んでくる草津も抱えている思惑は同じだろう。前節は北関東ダービーを戦ってスコアレスドローに終わったものの、シュート数では栃木を上回って押し込む展開に持ち込んだ。ダービーという側面も相まってコンタクトの激しさに象徴される闘う姿勢が草津らしさとして強調されるが、「中の２人がうまく長短のパスを使い分けている」と原田拓もその印象を述べているように、松下裕樹、熊林親吾ら中盤が組み立てる攻撃は、副島博志監督も「最後に足りないのはゴールだけという展開になっている」と手応えを感じているようだ。また前節はケガの影響でメンバーから外れているがアレックス ラファエルはじめ、土井良太や金成勇、さらにサイドの小林竜樹ら前線は高さやスピードを持ったキャラクターが揃い、栃木戦でも中央からのカウンターと左右からのクロスなどバリエーションのある形を見せた。「ビルドアップの段階もだが、トップを抑えることが大事」と高木琢也監督も警戒する。

ゲームの展開としては、お互いに前節はチャンスを作りながら得点に結べなかった点を踏まえると、先制点が大きな鍵を握ることになるのは必至。ここまで失点の少ない草津、また４バックに移行してそれまで３バックで培ってきた連携がよりスムースになった熊本とも、いずれも守備の安定感が高まっているからこそ、いかに焦れずにボールを動かして守備ラインの綻びを衝けるかが勝負の分かれ目となる。「自分たちからアクションを起こして崩すのがベストだけど、ボールを動かすことで相手も疲れてくるし、回しながら空くのを待つことも大事」と原田。とは言え、スピードアップすべき場面、シンプルに裏を狙える場面があれば、その好機は生かさなくてはならない。また、前節松本の守備網を崩せなかったことを受け、積極的にトライする場面を増やし、時に整ったラインをつり出すミドルも織り交ぜたい。いずれにしても、場面場面に応じた的確なプレーを「タイミングを逃さず」（高木監督）チョイスできるかもポイントとなろう。

同時に、その裏返しとして我慢強い守備も欠かせない。中盤や相手陣内での安易なボールロストはピンチを招くが、快勝した栃木戦で改めて意識した“攻撃をやりきる姿勢”を持続してカウンターのリスクを減らした上で、そうした場面が生じた際には相手より速い出足で再びボールを奪い返すこと。それができれば、逆にチャンスは広がる。攻撃時のリスクマネジメントとともに、早い切り替えによる守備で、高い位置でボールを取れるかにも着目したい。その点で重要になるのが、FWも含めた選手間の距離だ。養父の出場停止でまたボランチの組合せが変わるが、長身のターゲットへ入ってくるロングボールのこぼれも含めたセカンドボール争いにおいても、「攻守のバランスを取ること」（原田）が求められる。

ともあれ、足踏みしている時間はさほど残されていない段階に入り、お互いに欲しいのは結果である。ピッチに立つ顔ぶれが変わろうと、チームとして同じことができるかが問われる一戦。下位を抜け出して終盤へ加速するのは、熊本か、草津か。

以上

2012.08.21 Reported by 井芹貴志