北九州にとっても、町田にとっても勝ちきれない試合だった。勝点２を失った試合の代償はこの試合を上昇の端緒としたかった双方に重くのしかかる。しかし、ここで下を向いてはいけない。できたこと、できなかったことをチームとして見つめ直していきたい。

試合は開始早々に動く。町田のコリン・マーシャルが右サイドを突破して折り返し、平本一樹が繋いだボールを鈴木崇文がゴールへと振り抜いた。開始わずか２分。北九州としては警戒していたはずの時間帯だったが、この試合も立ち上がりを抑えることはできなかった。
ただ、町田にとってもこの先制点がゲームの流れを呼び込むまでには至らなかった。むしろ「ＦＷまで下がってしまった」と田代真一が悔やむように、チームは早々に守りに入ってしまう。３−５−２のフォーメーションは、ほとんど５−３−２のような状況となり、重心は下がったまま。もっとも北九州は「相手も引いてバイタルを空けて自由に入っていくことができたが、そういう中で決めきれない」（三浦泰年監督）状況で、ポゼッションしながらもゴールに近いところまで持ち込むことができなかった。

追いつきたい北九州は後半、全体のスピードアップと相手の堅いディフェンスを破るべく、４−３−３からダイヤモンドの４−４−２に変更し、ボランチに攻撃的な選手の金鐘必を投入。57分には「竹内とは違うアイデアがある。より決定的な仕事ができる」（三浦監督）という森村昂太も入れ、攻撃の再構築を図った。
58分にはその森村の右からのＣＫ。「これを決めれば試合を決められる」（森村）と気持ちを込めたゴール直前への供給に川鍋良祐が頭で合わせて、ゴールネットを揺らす。だが、ゴール前でのファール判定で得点は認められず北九州はこの時間帯での同点を逃してしまう。ただ、点にならなかったとはいえ、北九州が選手交代や両サイドバックの積極的な攻撃参加でリズムを掴み始める。

しかし、64分に小森田友明に２枚目のイエローカードが出されてしまう。１人失った北九州は、ダイヤモンドを堅持した４−４−１とはせずに、４−３−２の布陣とする。「前の人数を変えずに、２トップをキープしたままで勝点３を取るサッカー」（三浦監督）を目指したもので、実際にも相手ボールへのアプローチが少し遅れ始めた以外に、サッカーが大きく損なわれなかった。
そして83分。途中起用の大島康明が右サイドの高い位置で町田ディフェンスに囲まれながらも巧みなボールキープでスローインを得ると、大島が素早いリスタートで木村祐志に送る。受けた木村はペナルティエリア内には入り込まずに、クロスボールをゴール前へ供給。ＧＫや双方のフィールドプレーヤーが交錯する中、「来そうな感じがしていた」と話す多田高行が左から入り込み、利き足ではない右足でゴールへと流し込んだ。
多田はこれがＪリーグ初ゴール。「両親も来ていたので目の前で決められてよかった」と笑顔の同点弾で、北九州は難しい試合をドローゲームにまで持ち込んだ。

一方で後半の町田は数的優位を生かすことはできなかった。「パニック状態に自分たちが陥っていた。ボールを繋げず、むしろ相手の攻撃ばかりを受ける悪循環に陥った」とオズワルド・アルディレス監督。開始早々２分の得点で勝利への光明を見いだせそうだったが、「経験が不足しているのかもしれません」という指揮官の言葉のとおりで、試合を１−０で終わらせることはできなかった。ただ、町田の人数を掛けたディフェンスやボールを繋ごうとする姿勢は結果へと結びつけるために続けていく必要があるだろう。ここでサッカーを変えずに、下を向かずに、継続をしていってほしい。

そして北九州は立ち上がりの失点を防ぐことはもちろん、１失点はあると捉え、２点目を取りに行くサッカーをやっていきたい。「ペナルティエリアに侵入する、シュートを打てる瞬間がある、そうでありながら決めることができない」と三浦監督。チャンスを増やしたり、適切なタイミングを見計らうことは難しいことではあるが、辛抱強く挑戦していかなければならない。この試合は不運が重なったが、これを引きずらず、できることを伸ばす作業を北九州も前を向いて継続し、次節に臨みたい。

以上

2012.08.06 Reported by 上田真之介