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【J1:第17節 広島 vs 磐田】レポート:闘い続けたベテラン、躍動。団結の紫、2位を死守(12.07.08)

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彼はただ、時を待っていた。その時がやってくるまで、できることをやり続けた。
調子は悪くはない。練習でも存在感を発揮できていた。だが、ヤマザキナビスコカップはともかく、リーグでの起用はわずか1試合。毎試合、真摯な姿勢で準備を続けても、声がかかるのは若い選手たち。広島移籍後は常に主力として活躍し、過去3年間で95試合の出場を果たした中島浩司を襲った現実は厳しい。だがその苦しい状況の中でも、中島浩司はひたすらチャンスを待ち続けた。

なぜ?
そう問いかけたくもなる。
俺に、何が足りない?
そう叫びたくもなる。
だが中島は、冷徹な現実を受け入れた。自分のやるべきことを探し、やり続けた。イ・デホンら試合に絡めない若者を励まし、アドバイスを続けた。務めて明るく振る舞い、チームの雰囲気を盛り上げた。練習では常に全力プレー。今週も森崎浩司と共に控え組の攻撃を躍動させ、紅白戦で主力を圧倒したこともある。そんな中島の姿を、森保一はじっと見つめていた。

71分、青山敏弘が腰の負傷のためプレー続行不可能に。前半のミキッチに続く負傷交代。チームの動揺は隠せない。だが、森保監督は自信を持って、ベテランを送り出す。この事態に対して、何を為すべきか。指揮官と言葉を多く交わさなくても、中島にはわかっていた。
この時間帯、広島はリズムを失っていた。後半頭から決定機を6度も創出したものの決められなかったことで、逆に磐田がペースを握っていた。65分、74分。山崎亮平がビッグチャンスをつかむ。

「長いボールばかりになっている。リズムを取り戻そう」
そのために自分が何を為すべきか。考えるスピードは、誰よりも速い。仙台からスタートし、千葉でも広島でも、中島はそこで勝負していた。
76分。ゴールキックのセカンドボールを石川大徳・森脇良太とつなぎ、中島が引いてきた高萩洋次郎にパスをはたく。
彼は、止まらない。
リターン。ワンタッチパス。
やはり彼は、止まらない。
佐藤寿人が柔らかく落とし、石原直樹へ。「ナカジさんが前に飛び込んでくるのは、わかっていた」と石原は信じた。動きながらプレーを連続させる。中島のスタイルは、頭に入っている。パス。佐藤が流す。トップスピードの中島が入ってきた。広島は、誰もが彼の動きを信じていた。磐田は、予測できなかった。

ワイドに張った石川と清水航平を磐田の守備陣はケアせざるをえず、中央は2対2の状況をつくられていた。最終ラインの前でクサビをケアしていた藤田義明は中島にアタックしたものの、ダイレクトパスでかわされ、連続したベテランの動きについていけない。小林裕紀は石原と佐藤への対応に気を取られ、中島の動きを見ることができなかった。スピーディな広島のパス回しとサッカーをよく知る34歳のフリーランニングが、盤石に思えた磐田のブロックを突き崩した。
森脇からボールを受けた後、一度も止まることのなかった中島に、菅沼駿哉が必死のスライディングを仕掛ける。だがそのコンマ何秒前、中島は左足アウトサイドでゴールに向かってパスを出した。コロコロと転がるボールはGK八田直樹の右手をかいくぐり、広島ビッグアーチの時間を止めるかのごとく、ゆっくりとゆっくりと、ネットに向かって流れた。

磐田の広島対策は、はまっていた。復帰してきた山田大記を中央に配し、アグレッシブな山崎亮平を左ワイドに張らせてミキッチへの圧力装置を仕掛けた。前線からのプレスで最終ラインに圧力をかけ、藤田がアグレッシブな動きでクサビの受け手を監視。前半、広島のシュートを2本に抑えた事実は、磐田の守備が機能していた証拠だ。
だが、3列目の選手が前線に絡み、ワンタッチパスが連続する広島の流麗なコンビネーションまでは、防ぐことはできなかった。広島キラー・前田遼一はシュート1本に抑え込まれ、終盤は森崎和幸の前に存在感を消された。山田は4本のシュートを放つも、ドリブルで切り裂くシーンは見られなかった。ただ、敗れたとはいえ狙い通りの守備は表現できていたし、後半は決定機も創出。松浦拓弥ら離脱者の復帰も予想される次節以降の巻き返しを期待したい。

アディショナルタイム、やはり途中出場の森崎浩司が強烈なミドルを叩き込み、勝負は決まった。ベンチからスタートした選手の得点は今季6点目、76分以降のゴールは14点目。ミキッチや山岸智の穴を埋めるべく躍動した石川や清水に代表されるチームの団結力と最後まで諦めない粘り強さが、これらの数字となって表れている。そんな広島サッカーの特長が戦術も含めて凝縮された場面こそ、今季2試合目の出場を果たした中島浩司が見せた、ため息が出るほど美しい得点シーンだったのだ。

以上

2012.07.08 Reported by 中野和也
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