歓声と拍手が降り注ぐ中、隊列を整える。前節の松本戦に引き続き音頭を取ったのは大和田真史。グリスタでは１カ月ぶりとなる歓喜に身を浸し、待ちに待った至福の時。雨中の「県民の歌」は、首位撃破のドラマ性を引き立たせ、いつも以上に味わい深いものとなったに違いない。
「勝ってそういうことを共有できるのがサッカーの素晴らしさだと思うし、ホームゲームの素晴らしさ。この喜びは何物にも替え難い。雨の中、必死にサポートしてくれたサポーターと喜びを分かち合えた。サッカーをやっていて良かったと思う」
心地良い疲労感と充足感に包まれながら、菅和範は勝点３の喜びをそう語った。山形を相手に１‐０。取り戻した栃木本来の姿で、堂々と首位を打ち破った。まだ２連勝に過ぎないが、強い栃木の復活は近い。２試合連続完封は、そう思わせるのに十分な説得力を持つ。

「アウェイでは終盤に点を入れられて負けたので、今日はやり返そうと思っていた。山形のメンバーは前回と全く一緒。勝つことだけを考えた」と古巣に結果で恩返しした高木和正が言うように、成績をイーブンに戻して挑んだ後半戦の初陣、勝利をたぐり寄せたのはリベンジの思い。「多少、球際のところとかで相手に勢いをつけた」と奥野僚右監督が悔やんだように、栃木の気迫は特に球際で顕著に見て取れ、素早くルーズボールに食い付いた。先制点のシーンは象徴的で、浮き球の落下点に鋭く潜り込んだ本橋卓巳は「メンタルが充実していないと多分、反応できなかった」と語る。高木同様に古巣への強い思いを抱えていた本橋は、胸トラップから流れるように廣瀬浩二にパスを送る。「今日はどんどん仕掛ける事を意識していた」廣瀬が果敢に仕掛け、積極性が相手のオウンゴールを見事に誘った。先制後も廣瀬、赤井秀行がドリブル突破を図ることで山形の組織に問題を起こし、抜群の距離感を保った守備ブロックは山形の進撃をことごとく阻んだ。「前半に関しては、ほぼ準備した通りにゲームも支配できた」（松田浩監督）。

エンドが代わった後半も、先制後からの構図は変わらず。上手くブロックを組んだ栃木が、連動して崩しにかかった山形の反撃を跳ね除けた。７２分の最大のピンチも、中島裕希の飛び出しに対してトラップミスした宇佐美宏和はもちろん菅、パウリーニョ、菊岡拓朗が必死に帰陣したことで乗り切った。安易なミスは反省材料だが、「守備の局面で守備を１００％やる」（松田監督）ことが出来たのは収穫だった。全員の高い守備意識が「ウノゼロ（１‐０）」に繋がった。

「相手を押し込んだ状態でサイドを使ったり、中からの崩しというものも、取り組むべきものは形として少しずつ出せた」
奥野監督が指したのは中島の決定機を皮切りに流れを掴んだ後半３０分以降の展開。体力的に落ちた栃木に対し、両サイドから圧力を掛けると同時に、中央からも秋葉勝や山崎雅人がゴールを狙った。しかし、栃木にブロックを構築され、それを打ち破れず。引いた相手を崩しきることに加え、先制される前から残り１５分のような攻撃を繰り出せなかったことが課題として突き付けられた。次節の富山戦では前線の活動量を活かして持ち味のハイプレスで主導権を握り、今季初の連敗を喫しないようにしたい。

今回は終盤に競り負けなかった栃木。連勝を飾り、プレーオフ圏内の６位・甲府との勝点差を６に縮めた。７月シリーズは鳥取、町田、富山、水戸と下位との対戦が続き、上位との対戦以上に難しい試合が待ち受けている。上位と好ゲームを演じながらも下位に取りこぼす。これまでの悪癖を払拭できるかが上位進出の鍵になる。
「今年のＪ２は順位に関係なく下位が上位に勝っている。どうなるか分からないが、鳥取にはホームで負けているのでアウェイでリベンジしたい」（高木）
先を見て星勘定をするのではなく、目の前に一戦に全てを注ぐ。取り戻したスタイルと試合へのスタンスを忘れずに最良の結果を持ち帰りたい。逆襲の狼煙はあがった。ここからが勝負だ。

以上

2012.07.02 Reported by 大塚秀毅