名古屋の反撃態勢が徐々に整いつつある。ストイコビッチ監督指揮下で最悪とまで言われた今季の序盤戦を経て、指揮官が選んだのは「何も変えないこと」だった。過密日程で疲労困憊だったチームには1週間のオフを与え、まずは心身の疲労を取り除いた。そして2週間のリーグ中断の後半を短期キャンプにあて、連日の2部練習でフィジカルと戦術の両面でチームを鍛え直してきた。強調していたのは代名詞でもあるサイド攻撃のバリエーションと、ピッチ内の「ハイゾーン(敵陣)」と「ローゾーン(自陣)」でのプレー選択について。プロにとっては基本中の基本だが、それを敢えて繰り返すことで「自分たちのサッカーは間違っていない」ということを改めて選手に認識させた格好だ。
そして臨んだ再開初戦の鹿島戦では、3-2の打ち合いを制して見事に勝利。かつて鬼門と呼ばれたスタジアムでの勝点3は、チームに再び自信を取り戻させるきっかけとして十分だった。
それゆえに磐田戦に臨む選手たちの表情はリラックスしていた。藤本淳吾は鹿島戦を振り返って「先制されても、追いつかれても、負ける気がしなかった」と語り、得点を挙げた金崎夢生も「自分的には全然ダメでした。でもチームとしてのやることはハッキリした気がする」と、ともに自信に満ちたコメントを残している。どこか手探りの攻撃を繰り返していた序盤戦に比べれば、彼らの態度ひとつとっても格段の差が今の名古屋にはある。玉田圭司やダニルソン、中村直志ら主力の負傷者はまだ戻ってきていないが、前節ではダニエルと田口泰士がそれぞれのやり方でアンカーを務め上げ、チームのバリエーションはむしろ増えている。現在のリーグ最強の攻撃力を誇る磐田を相手にしても、不安はないと言えるだろう。
その磐田は前節では神戸に1-3の敗北を喫したが、これが5試合ぶりの黒星と今季は好調だ。特に目立つのが前述のように攻撃力で、14試合31得点はリーグ最多タイ。得点ランク上位に前田遼一(7点)をはじめ山田大記(6点)、山本康裕(6点)と並び、チーム内10人がリーグで得点を記録する強力なラインアップとなっている。しかし今節では山田が出場停止、韓国のメッシとの呼び声高いぺク・ソンドンが負傷欠場。代役には山本康裕や松浦拓弥、菅沼実などのタレントが揃っているが、それでもこの2選手が不在では戦力ダウンは否めない。名古屋のゾーンディフェンスはドリブラーに弱い一面があるため、彼ら2列目の攻撃的MFの奮起は試合を左右する重要な要素となる。
ともにサイドの人材が豊富なチームだけに、試合の流れは中央のゲームメイカーたちに委ねられる。名古屋は藤本淳吾と小川佳純、田口泰士ら、磐田はボランチの小林裕紀やロドリゴ・ソウトらだ。4-3-3の名古屋と4-2-3-1の磐田の中盤は、並び的にも真っ向から対峙することになる。チームの核たる選手たちの主導権争いは、この試合の見所として注目しておきたい。
もちろん、ケネディと前田遼一というリーグきっての点取り屋たちの動きも見逃せない。現在7得点、日本代表でも2試合連続で得点を挙げるなど絶好調の前田は、田中マルクス闘莉王率いる名古屋の高い壁に独力で対抗しうるタレントだ。ようやく腰の状態が上向いてきたケネディも、前節で復調ぶりをアピールしている。ここに名古屋は永井謙佑、磐田は山崎亮平と山本康裕というオリンピック代表候補たちが絡むことで、両チームの攻撃はさらに加速していく。ゴール前の攻防は話題性も抜群。90分を通して常に白熱すること間違いなしだ。東海ダービーとしても気合の入る一戦は、ここ数年ハズレなしの好勝負が続いている。アグレッシブさが売りの両チームだけに、今回も好勝負となる予感は十分。梅雨を吹き飛ばす激しい攻防に期待しておきたい。
以上
2012.06.21 Reported by 今井雄一朗
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