戦いの中で少しずつ積み上げているチームと、自分たちのサッカーを表現できずに不安定な戦いを続けるチーム。その差が顕著に表れた試合だった。個々の能力で言えば福岡に分があったことは確かだろう。しかし、それがサッカーのすべてを決するわけではない。サッカーはピッチに立つ11人全員が、それぞれの役割を果たしてこそ初めてチームとして機能する。そういう観点から見れば、チームとしてやるべきことを明確にし、個々が担う役割を着実に実行に移していたのは岐阜であったことは間違いない。「戦術どうこうというよりも、まずは言われた部分に対して、1人、1人が責任を持ってやることが大前提。それがあって戦術・戦略があるので、その前提部分が出来なければ、こういう結果になる」。これは第17節草津戦終了時の古賀正紘の言葉だが、福岡にとっては、その言葉が改めて思いだされた試合だった。
この日の福岡の狙いは、立ち上がりから積極的にプレスに行ってボールを奪い、素早く攻撃に切り替えて岐阜がブロックを形成する前に攻めきるというもの。しかし、ホームゲームでありながら、そして、前節の松本戦で引き分けてしまった悔しさを晴らすという気持ちも持ちながら、それをプレーで表現できない。ボール支配率で大きく上回りながら、積極的に仕掛ける者もいなければ、素早く攻めようとする気配もない。もちろん、中3日で迎えた試合で疲労が蓄積していたという事情もあっただろう。しかし、出し手はパスを送るだけでプレーを止め、受け手に対するサポートも不十分。そして、ボールを奪っても素早く切り替えようという様子が窺えない。シュートの意識を高くする高橋泰が1人で5本ものシュートを放ったが、チーム全体を見れば、相手の様子を窺うようにパスを回すだけ。これではチームとしてチャンスを多く作れないのは当然だった。後半に入ってからはギアチェンジをして前へ出る機会も増えたが、チーム全体に漂う閉塞感は最後まで消えなかった。
一方の岐阜の狙いは、やや低めの位置に素早くブロックを形成して福岡の裏への飛び出しを封じ、奪ったボールを素早く前へ運んでゴールを目指すというもの。地力の違いから思うように前へ出られないのは承知の上。集中力を高め、少ないチャンスを得点に結び付けるべく、我慢強く試合を進めていく。その狙い通り、試合を膠着させたまま後半へ折り返すと、70分には井上平に代えて李漢宰を投入。4−1−4−1の布陣を、ダブルボランチを置く4−4−2へ変更して攻撃へとスイッチを切り替える。福岡の足が止まり始めていたこともあって、ここからは奪ってから素早く攻めるサッカーが機能するようになる。アディショナルタイムにゴールネットを揺らした中島康平のシュートはハンドの判定を受けて認められなかったが、90分間に渡って自分たちのやるべきことを着実に実行に移した。「完全にプラン通り。あの1本のために、みんなで同じ気持ちで戦っていた」と話すのは服部。結果として勝てなかったことに対しては悔しい表情を見せたが、同時に、今の自分たちが目指すサッカーを表現できたことに対して手応えも感じていたはずだ。
次節でリーグ戦の半分を消化する時期に、自分たちでやるべきことを理解し、トレーニングで少しずつ積み上げていながら、しかし、それを試合で表現できない福岡の状況は深刻だ。だが、現状をネガティブに捉えるだけなら何も始まらない。古賀は話す。
「チームがシーズン当初から掲げている目標や、やり方がある。まずは1人、1人が、それを高めていくしかない。上手くいかないことや、いろんなことがあるが、試合は確実にやって来る。とにかく目標を見失わずに、どんな時でもチームが一つになって戦って行くしかない」
昨年からチームに残る選手も、出場機会を求めてやって来た選手たちも、悔しい想いを晴らしたいという気持ちでシーズンをスタートさせたはず。そのためには、強い自覚と責任を持って自らを変えるしか方法はない。
そして岐阜。前節は自分たちの狙いを表現しながらも敗れたが、この日はスコアレスドローで試合を終えて一歩前進していることを示した。だが、順位が示すように力不足は否めない。何よりも求められるのは、千葉戦以降続く流れを継続すること。そのためには、ホームで迎える次節の町田戦で必要なのは勝利だ。「ホームでの試合。もっと積極的にやって点を取って勝ちたいと思う」(服部)。それはチームの想いを代表する言葉だった。
以上
2012.06.18 Reported by 中倉一志
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