6月の冷たい夜空に響いたのは、ホーム山形の「ブルイズ」ではなく、湘南の「勝利のダンス」だった。
前節、9試合ぶりの勝利を挙げた湘南は、出場停止明けの古橋達弥、ハン グギョン、大野和成をすべて先発に戻したが、勝利への意気込みはピッチ上に満ちていた。ラインを高く設定し、全体をコンパクトにして敵陣でプレッシャーをかけると、奪ったあとは3トップの中央に入った古橋が山形の間、間に顔を出しては起点をつくり、菊池大介、永木亮太が絡んでいった。
ハイプレスは山形にとって想定内のこと。相手が前がかったところで、広いスペースへ3トップを走らせたが、逆にそれに対する湘南の準備も抜かりがなかった。古林将太、高山薫の両ウィングバックが逆サイドから絞るようにディフェンスラインの隙間を埋め、あるいはハンが戻ることで自陣で数的不利の状況をつくらせなかった。他方、山形も3トップに船山祐二が絡んで出ていく場面はあったが、3ボランチの一角である秋葉勝はバイタルをケアするためにステイする時間が多く、互いに「守れているが攻めきれない」状態が続いていた。
膠着状態に変化が生まれたのは38分。山形の3トップと中盤の間にできた大きなスペースを利用して、右サイドの古林から坂本紘司を経由して、ハーフウェイラインを越えた島村毅へとサイドチェンジ。ラインを少しずつ下げていく山形の鼻先でパスをつなぐ。ボールを追い越し、スペースへ飛び出す攻撃が何度か続いたあとの42分、古林からのくさびをバイタルで受けた古橋は3人に囲まれたが、切り返して近くの永木にスイッチ。流れに沿って左へ持ち出すと見せかけて切り返し、中央から思いきりよく放ったシュートは、古橋の背中に当たってコースを変え、そのままゴールマウス右に吸い込まれた。アディショナルタイムにもハンのスルーパスに坂本が抜け出し、左からのクロスに菊池が飛び込んでヘディングを合わせるなど、シンプルな攻撃で精神的な痛手が消えない山形を後手に回した。
後半、1点を追う山形は立ち上がりから怒濤の攻撃を開始する。左スペースを突いてクロスを上げ、湘南のゴールを脅かすシーンを何度かつくると、その勢いで得た54分のコーナーキックでは、こぼれ球に反応した萬代宏樹がシュート。ここでブロックした相手のハンドをアピールした萬代が異議でイエローカードを受けるが、そこから6分間で西河翔吾、宮阪政樹、秋葉と計4度のイエローカードを受けている。なかでも宮阪、秋葉はかわされた相手に簡単に手をかけたもので、そうしたある種の焦りは、プレー自体のなかにも見られ始めていた。
67分、山崎雅人が蹴ったPKはGK阿部伸行に止められたが、こぼれ球を狙う人数も、それに備える意識の高さでも相手を下回っていた。この決定機を逃したことで、攻撃では縦への勢いはあるが、悪く言えば、精度へのこだわりが薄れた大味なものが多くなった。宮阪の直接FKが決まり、77分についに同点に追いついたが、3分と経たないうちに再びリードを許した。「ラッキーですね、完全に。体力的にもきつくて、とりあえず打ってやろうと思って打ったら入りました」という高山のゴールそのものはスーパーなものだった。ただその背景として、「選手交代したばかりで、中盤のところのポジショニングだったりが気になっているところでやられた」(清水健太)と、地に足がついていないことで、ラストパスを出した永木に前を向く十分な時間を与えることになった。
残りの時間は山形がほぼ一方的に反撃するものの、そこで目立ったのは山形の攻撃以上に、湘南の粘り強いディフェンスだった。特に、阿部は神懸かり的なセープを連発。90分、ゴール右隅を突く秋葉のシュートも、阿部が伸ばした右手が阻み、後半だけで15本放たれたシュートも宮阪の1点止まりに終わった。
「フリーキックでやられましたけれども、そこを盛り返そうというメンタリティが今日はチーム全体にありましたので、勝ち方としては非常にいい勝ち方だったんじゃないかなと思います」。最後までファイトした選手たちを、曹貴裁監督は遠征に帯同できなかったメンバーも含めてたたえた。湘南は連勝で首位と勝点3差の4位にジワリと浮上した。「こういう勝ち方ができたというのも収穫だと思いますね」と坂本が振り返る。「(これまでは)勢いで突き放して勝ってきた部分しかなかったので、こういう勝ち方もできるよとみんな感じたと思う」と、耐えてつかんだこの勝利に特別な意味を見いだしていた。強い湘南が戻ってきたが、ただ戻ってきただけではない。8試合の勝てない時期を経てつかんだ、新たな強さがここにある。
逆に、山形は首位から3位に後退。奥野僚右監督は「勝ちきりたいという思いがうまく噛み合わなかったんじゃないかなと思います。選手ともども、ゲームにもっと集中して入っていかなきゃいけないと、改めて今日思いました」と修正の必要性を指摘した。「前半は堅いというか、相手を見ながら仕掛けていくというのは思っていたんですけど、ちょっと引き過ぎだなと」(石井秀典)と、立ち上がりから相手を受ける形となり、失点したあとは反撃するパワーは持っているものの、それぞれがフラストレーションを抱えていたことで十分な「連」を実践できなかった。
以上
2012.06.14 Reported by 佐藤円
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