スコアは2-1の辛勝だが、この高揚感は何だろう。未知の対戦相手とのゲーム、平日のナイトゲーム、もちろん逆転勝利が理由かもしれない。いずれにしても根底にあるのは、町田が大きな力を感じさせてくれたことだ。進化への壮大なプランのもとでグッドパフォーマンスを続けるチームから、岡山は勝点3を奪った。上出来の映画のようにスリルと興奮とアイデアが90分間に散りばめられ、主人公たちがファイトする姿があった。

岡山は前節・栃木戦で右足を痛めたチアゴが欠場。代わりに7試合ぶりに中野裕太が前線に入り、川又堅碁、金民均の3トップになった。町田は藤田泰成が累積警告による出場停止で、柳崎祥兵が左サイドバック、コリン マーシャルがアンカー、太田康介がセンターバックを務めた。また出場停止明けのドラガン ディミッチがトップ下に入った。システムとして組みしづらい相手に対し、岡山の得点プランは、川又・中野にシンプルに入れること。対する町田は、ポゼッションからのクロスやシンプルな縦パス、またドリブルで揺さぶりをかけてゴールに迫った。

先制点は、岡山・影山雅永監督もうなる、町田・平本一樹の抜け出しからの見事なゴールだった。それまでの時間も町田がポゼッションからリズムを作り、主導権を握っていたが、ゲームが動いたことで、岡山の得点を急ぐ気持ちが顕著になる。前節ゴールを決めた石原崇兆の飛び込み、金民均から中野へのパス。しかし町田はほぼ全員が自陣に戻って対応。岡山は落ち着いて突破するまでには至らなかった。

早い展開の中で落ち着いたパフォーマンスを見せる町田に対し、前半37分、岡山のボランチ・千明聖典が奪って上がるシーンがあった。ここで岡山の仕掛けの質が本来の落ち着きを取り戻したように見えた。そして前半39分、仙石廉からのロングボールを受けた川又が相手DFを交わし、角度のないシュートを右足で蹴り込んで決める。「相手より先にボールにさわれたんで」と川又。そして41分には、DF後藤圭太からのボールを、中央で金民均が振り抜いてゴールに突き刺す。「受ける前に千明と目が合った。千明がスルーして、自分で点を決めたかったので行きました」と金民均。8試合ぶり、今季3得点目が決勝点となった。

後半に入っても、町田の落ち着きは変わらず、攻撃の手はより精密になった。後半13分には北井佑季のシュートをGK中林洋次が弾き、16分にはディミッチがエリア内で中林と１対１になるが、これも止めた。岡山のDF竹田忠嗣は町田の巧さをこう話す。「ビルドアップから前に入ってくる部分では何とか対応出来ましたが、そこから展開された時、バイタルで色んなアイデアを使ってきたので、誰を掴む、どこで潰すということがちょっと難しかったですね。１対１は中林が救ってくれました」。後半28分のディミッチのシュートを含め再三、岡山のゴールを脅かした町田の攻撃を、何とか岡山は凌いだ。

町田の1トップとして、あらゆるアイデアを体現して動いた平本はゲーム後、「ドリブルで相手のDFを縦にずらすとか、攻め込む時に、他の人に入ってもらって僕がおりて受けてターンしてというやり方をしてもいいかなと思う」と尽きないアイデアを話したことは印象的だった。

「今まで同じようなシチュエーションで勝てなかった経験から、（これまでとは違うんだ、と）過去の自分たちとも戦っていたかもしれません」と影山監督。またカンスタの雰囲気については、こう話した。「いつかもう1点入るんじゃないか、という雰囲気に持っていってくれるんですよね、このスタジアムが。このスタジアム全員で勝点を取ろうという雰囲気がなければ、もしかしたらもう1点、いや2点かな、押し込まれていたかもしれません」。

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2012.06.14 Reported by 尾原千明