C大阪に関わる人々が常日頃から待ち望んでいたシーンが、6日夜のキンチョウスタジアムにはあった。桜色の至宝、柿谷曜一朗が、クラブに復帰した今季、ホームにて初ゴール、そして、決勝点を叩き込む大活躍。清武弘嗣、キム ボギョンといった主軸が不在のなか、13番がこの日は堂々の主役となり、C大阪を勝利に導いた。
W杯アジア最終予選によるJ1中断期間に行われている、ヤマザキナビスコカップ予選リーグの第5節。清武の海外移籍が決まり、さらにはロンドン五輪が目前に迫っている状況を見据えると、この一戦の持つ意味合いは、非常に大きかった。そこで、柿谷を中心に、新たに出番を得た選手たちを含めて、C大阪が勝利という結果を出したことに価値がある。
J1第13節名古屋戦から先発が5人も入れ替わったC大阪は、公式戦5試合ぶりの出番となるレフティの丸橋祐介が、ブランキーニョとともに攻撃的なポジションに入り、柿谷は前線の一角に名を連ねた。前半は、その3人が絡んだ攻撃を中心に攻勢に立ち、ブランキーニョがゴールポスト直撃となるシュートを放つなど、好機も数多く作る。しかし、30分、先にゴールを献上してしまい、前半は1点ビハインドの展開で折り返す。
そこで、ハーフタイムに、セルジオ ソアレス監督が動く。前半に警告を受けていたボランチの扇原貴宏に代えて、ホームゲーム初出場となる吉野峻光を送り込み、丸橋をボランチに置く。「マルを(ボランチに)入れることで、もっと前にスムーズにボールがいくのではないかと考えた」という指揮官は、「ゲームの展開にスピード感を出すため、そして、(2枚目の警告で)1人少なくならないために、あの交代を考えた」。この策が、いきなり功を奏す。
47分、茂庭照幸のパスカットから、柿谷、吉野とつなぎ、最後はケンペスが、うまくターンして左足を振り抜き、公式戦3試合連続ゴール。後半に入ってすぐに試合を振り出しに戻したことで、C大阪は主導権を奪い返した。
そして、58分、ケンペスと柿谷の前線でのプレスから、ボールをカットした柿谷が、スピーディーなドリブルから相手を軽やかにかわし、右アウトサイドで、難しい態勢からビューティフルゴール。「前が向けたし、後半の最初だったので、仕掛けようと思ってやったら、ゴールにつながってよかった」という13番の一発で、逆転に成功した。
68分には2−2とされて、シーソーゲームとなったが、C大阪の勝利への執念が、86分、またしても柿谷の右足にやどる。自らの突破から得たFKで、酒本のプレースキックのこぼれ球を、ペナルティーエリア内で待ち構えていた柿谷がダイレクトでシュート。これが絶妙のコースに決まった瞬間、スタジアムのボルテージは最高潮に達し、「曜一朗」コールがいつまでも鳴り響いた。サポーターの寵愛を受ける男の2得点で、C大阪が逆転勝利を収めたのだ。
ヒーローとなった柿谷だが、「僕ら前の選手もやることは分かっていたので、チャンスをものにしようという思いでやっていた。また、守備も耐えてくれていたので、本当にチームが1つになっていた」と、チームワークでの勝利を強調。また、「『キヨくん(清武)とか(キム)ボギョンとかいなくて、勝てない』と言われるのは嫌だった」という山口螢は、「代わりに出てくれた選手が活躍してくれて、2点とった(柿谷)曜一朗くんにしても、あれだけできるというのを証明してくれたので、これからチームにもすごくプラスになると思う」と、今後への手応えをつかんでいた。これでC大阪は勝点を9に伸ばし、Aグループ首位に浮上。決勝トーナメント進出に一歩近づいた。
一方の川崎Fは、負傷者続出のなか、このアウェイ戦にも17人しか登録できず、登里享平を左サイドバックに置くなど苦しい台所事情にもかかわらず、最後まで奮闘。ただ、あと一歩及ばず、予選リーグ敗退が決まってしまった。それでも、楠神順平のゴールで前半に先手を取り、後半には矢島卓郎のゴールポスト直撃のループシュートから、そのリフレクションをレナトが押し込んで一時は劣勢を跳ね返すなど、前線の選手たちはしっかり期待に応え、風間八宏監督のもとで攻撃力が増していることを、この試合でも証明した。
ただし、風間監督は「やっぱりボールがしっかり持てないというところで苦しんだ。まだまだ1人1人のレベルを上げなければいけないなというのが、率直な意見」と厳しい評価を下し、「今日はミスがかなり多かった。それで自分たちの手の中にあった勝利を逃してしまったとも思うが、これは1人1人のところの自覚と、変化をしてもらっていかないと困る」と、イレブンにさらなる奮起を促していた。
以上
2012.06.07 Reported by 前田敏勝
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