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【J2:第16節 栃木 vs 東京V】レポート:廣瀬、高木、小野寺の3発で名門・東京Vを撃破。4戦無敗の栃木は9位に浮上し、上位追撃態勢を整えた。(12.05.28)

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頼もしさを感じると同時に、危うさも感じる。ここ最近、高木和正の勝利への執念と運動量は常軌を逸している。シーズン終了まで持たずに、途中で燃え尽きてしまうのではないかとさえ感じるほどだ。東京V戦を前にそのことを本人に伝えると、高木はこう話してくれた。
「目の前の試合でチャンスを逃したら次はないと思っている。いい危機感と緊張感を持って、今は試合に臨めている」
J1から地域リーグまで転落した過去を持つからこそ、明日が保障されていない身であることを、1試合の重みを痛いほど理解している。チャンスは何度も巡ってこない。だからこそ、今度は逃さなかった。

前節の湘南戦では同点にされた直後、勝ち越しのチャンスで放ったシュートがポストに阻まれ、勝点3を掴み損ねた。先制するも振り出しに戻され、名門撃破のチャンスが遠退きかけた78分、前節とほぼ同じ位置でパスを受けた高木。「トラップで最初にイメージ通りのところに止められた」ことで、迷いなく利き足の左を振り抜けた。強烈なシュートはニアサイドを射抜き、ゴール上段へと突き刺さった。さらに84分、果敢なドリブル突破から小野寺達也の駄目押しゴールのきっかけを作った。岡山を指揮する影山雅永監督から広島時代に授かった「チャンスの鳥の話」――チャンスの鳥は年に数回しか飛んで来ない。そのチャンスを活かすも殺すも自分次第――を今でも肝に銘じている高木。上位進出の重要な局面で飛んで来た「チャンスの鳥」を両手でがっちり捕まえた。

同点で迎えた試合終盤の75分、勝負所と読んだ松田浩監督は今季初めて2トップの2枚代えを行った。その効果は絶大だった。「2人が入ったことで裏に抜けてくれたし、ビックチャンスが増えた」と菊岡拓朗。サビアと廣瀬浩二のペアと入れ替わった、棗佑喜と河原和寿のペアは交代直後2人だけでゴール前に迫って潮目を変える。高木のゴールの際にもDFを引き付ける囮役を見事に演じ切った。82分にも再び2人の関係でゴールを脅かすと、84分の3点目にも絡んで勝利に貢献した。「今日はサブも含めて全員で勝った試合」とは高木。名門撃破は想像以上に困難だったが、全員で乗り越えたことに価値があった。

「互いにカウンターのチャンスがあったけど、後半に立て続けに失点したことが勝敗を分けた」
そう敗戦を悔やんだのは阿部拓馬。前半から東京Vは持ち味、つまり巧さを発揮し、前線では杉本健勇が起点を作っては圧力を掛け続け、先行されてもすぐさま西紀寛のゴールで追い付いた。後半も攻撃力を活かして何度もゴールに襲い掛かった。だが、GK柴崎邦博の好守とポストにも邪魔され逸機。次第に栃木のカウンターにハマり始めると連続失点で突き放され、88分の小池純輝のゴールは追い上げムードを作るには些か遅すぎた。「チームとして点を取る力はあるので、失点しても気を落とすことがないようにしないといけない」と小池が言えば、川勝良一監督も「ゲームを投げたわけではないけど自信なさそうな、ネガティブな雰囲気をチームとして完全に払しょくできなかった」とメンタル面を課題に挙げた。攻撃面で特性を出せる選手が大半を占めることから、先手を奪えれば5‐1で大勝した北九州戦のような展開に持ち込める。一方、そのプランが崩れた場合にはナイーブな面も垣間見られる。思い通りに事が運ばない時、いかに崩れず持ち堪えられるかが昇格に向けたポイントになるだろう。

そびえ立つ壁を越えた喜びを、先制弾の廣瀬浩二は「(東京Vは)名門なので素直に嬉しい」と語った。続けて廣瀬はこんな収穫も口にした。「間でボールを受けられたし、放り込みだけではなく足元でボールを動かせた」。パス回しを得意とする相手に、そのお株を奪うようなボールの動かし方ができたことは大きな自信を生んだ。ポゼッションが向上しているのは、日々の練習の成果であり、菊岡効果でもある。一見すると無駄に映る中盤でのパス交換が、実は試合の流れを緩やかに変えてもいる。

2006年の天皇杯3回戦、当時アマチュアだった栃木は東京V(当時東京V1969)を撃破し、それがJ2参入の機運をグッと高めた。2007年に夢破れ、本腰を入れた2008年、天性のリーダーシップで栃木をJ2へと導いたのは東京Vから移籍してきた佐藤悠介(現栃木SCドリームアンバサダー)だった。「J1へ」をスローガンに戦った昨年は目標に届かず。再び悲願に挑む今季、東京Vから加入したのが、佐藤と同タイプの“クラック(名手)”菊岡。奇しくも栃木は上に行くために同じ軌跡をなぞっている。2006年の勝利があったからこそ今がある。2012年の勝利があったからこそ。近い将来そう言える日が来るように、歩みを止めることなくずんずん突き進んでいきたい。

以上

2012.05.28 Reported by 大塚秀毅
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