サッカー雑誌の編集部記者として１９９２年７月にサッカーの取材をスタートしてから、Ｊリーガーに限らず、大変多くのサッカー選手にお世話になった。その選手たちの中には現役を引退した人も少なくない。だが、その人と顔を合わせて「現役、お疲れさまでした」とか「今までお世話になりました。ありがとうございました」という言葉を言えることは非常に少ない。たとえば、千葉在籍時の２００９年シーズン限りで引退した斎藤大輔さんはリーグ戦終了前に引退を発表されていたので、ラストゲームの取材時に前述のような言葉を言うことができたが、そういうケースは非常に少ない。その選手がサッカーに関わる仕事をすれば会える機会があるかもしれないが、関東・甲信越以外のスタジアムに取材に行くことが少ない筆者にはその機会も少ない。

少し前の話になるが、５月13日のＪ２リーグ第14節・町田対千葉を取材に行った際、昨シーズン限りで現役を引退し、現在は町田のＧＫコーチを務めている吉田宗弘さんにお会いできた。吉田ＧＫコーチには彼が慶應義塾大学時代から取材でお世話になり、柏、Ｇ大阪、Ｃ大阪に在籍された時も試合取材でお会いすると、話を聞かせていただいてきた。だが、福岡、町田に在籍された時は（川崎市在住の筆者には町田市立陸上競技場はフクダ電子アリーナよりも近いのに）タイミングが合わなくて取材に行けず、最後にお会いしたのは確か２００６年のヤマザキナビスコカップ準々決勝第１戦＠長居だったように思う。

私に気づいた吉田ＧＫコーチは驚いた表情をしながら右手を差し出し、握手をしながら筆者と「お久しぶりです」「ご無沙汰しています」と挨拶し合った。筆者は町田での選手時代に取材で会えなかったことを謝り、言いたかった「現役、お疲れさまでした」という言葉を言うことができた。吉田ＧＫコーチは「自分は才能もないのに15年間もプロでやることができた。15年間は長かったような気もするし、短かったような気もする」と現役生活を振り返り、「指導者に絶対なりたいと思っていたわけではなかったけど、声をかけていただいたのもあるし、ＧＫコーチは歳を取ってからではできないと思うので。たとえば将来ＧＭになるとしても、（指導の）現場を経験しておくのはいいことだと思った」と話した。
才能がなければ15年間もプロとしてプレーできないと思うが、「才能がない」と言い切る吉田ＧＫコーチはその分、努力することを大切にプレーしてこられたと思う。きっと努力を大切にする、素晴らしいＧＫを育てられるのではないだろうか。

千葉に関わりがある、現役を引退された元選手のことを、付け加えて書かせていただきたい。今年のＪリーグのキックオフカンファレンス取材時には、２０００年シーズンの途中から２００１年シーズンいっぱいまで千葉に在籍し、今シーズンから鳥取の強化担当になられた喜多靖さんに偶然にもお会いすることができた。喜多さんは「自分には大した力はないかもしれないけど、鳥取が強いチームになるために仕事を頑張りたい」とおっしゃっていた。

また、千葉Ｕ−18から専修大学に進学したＧＫの朴泰希さん（現在は千葉に所属の町田也真人選手と同学年のチームメイト）は、２０１２年１月５日の全日本大学サッカー選手権大会（インカレ）決勝戦をもって現役を引退された。朴さんは大学１年生時からレギュラーとなり、「卒業後はＪリーグでプレーしたい」と話していた。だが、２０１１年12月23日のインカレ準決勝の試合後、大学３年生時にレギュラーから外された時は「サッカーをやめようと一度は思った」が、「全日本大学選抜やユニバーシアード代表に選ばれることがなかったし、サッカーは大学までで終わろうという答えを出した」ことを明かした。大学４年生時に再びレギュラーになると、専修大学の関東大学リーグ戦初優勝に貢献。インカレ決勝ではファインセーブを連発して無失点勝利に貢献し、ベストＧＫ賞を受賞した。試合後に「本気でサッカーをやる最後の試合で勝ててよかった。楽しく終わることができました。サッカーをあきらめるのは悲しいけど、自分が決めたことだから。思い残すことはないです。気にしてくれて、ありがとうございました」と話した顔はとても晴れ晴れとしていた。

会って「現役、お疲れさまでした」と言えるのはうれしい。でも、それはその選手がプレーする姿をもう見られなくなることを意味する。だから、その言葉を言うのは寂しい。

以上

2012.05.23 Reported by 赤沼圭子