「90分間、ホイッスルが鳴ってから、鳴り終わるまで、その戦いぶりにとても成長を感じて満足しています」「自分たちにとっては、勝点1以上のものが感じられた試合になりました」。前節・福岡戦、後半に追いつかれ、勝点1に終わったことを悔しがるよりも、奥野僚右監督は試合の内容を重視して選手たちをたたえた。「残念ながらゴールには結びつかなかったんですけれども、自分たちが同点にされてから最後のホイッスルが鳴るまでのプレーに、1月から積み重ねてきたものがひとつ形になって見えたなと思うんですね。感動したし、うれしかったですね」
萬代宏樹が警告累積で出場停止のなか、スタートからは初めてとなる4-4-2を採用したこの試合の収穫は、大きいところでは2つある。ひとつは、「トップ下・秋葉勝」の手ごたえだ。先制点となる今季5得点目を挙げたことはもちろん、あるときはボールサイドに絡んでは攻撃に厚みを加え、あるときはファーストディフェンダーとしていち早くボールへプレッシャーをかけ、またあるときは味方がスライドすることで空いたスペースへカバーに入りと、ニュートラルな状態から必要なプレーを柔軟に選び取り、自在に使い分け、これまで培ったセンスを存分に発揮した。最近の秋葉について、GK清水健太も「飛び出す能力や嗅覚が発揮されてて、今は気分よくやっていると思います。あいつも熱くなりやすいタイプですけど、最近は落ち着いてやっているので調子がいいんじゃないかと思っています」と独特の言い回しで好調ぶりを評価しているが、これまで熟成させてきた3トップに新たなオプションが加わったことは、チームにとって小さいエポックではない。
福岡戦でもうひとつの収穫は、交代でプレーした選手の活躍。太田徹郎の投入で流れを引き戻し、廣瀬智靖の投入でそれを加速させたが、特に廣瀬は、勢いに質がともなったパフォーマンスで何度もチャンスメークした。「練習から100パーセントでやれてるかというところを奥野さんは見ていると思う。今はそれがやれている」と充実の表情で自らの可能性を一気に広げている。そうした意欲がチーム全体に溢れるなかでの勝利は、チームを大きく前進させる。
山形が首位に立ってから今節で2試合目。ホームに迎えるのは、今季2度目の最下位から4試合目となる岐阜だ。岐阜は2節前に好調・岡山を1-0で破り今季2勝目を挙げたが、ホームに戻り連勝を懸けた前節は松本を相手に0-1と敗れ、最下位からの浮上は果たせていない。この5試合は1勝4敗で、得点は岡山戦で樋口寛規が挙げた1点のみ。得点力不足は深刻だが、どの試合もシュート数は10本程度かそれ以上を記録しているほか、守備でも大崩れしているわけではなく、組織で粘り強く戦えている。めざすべきは、「0-1」を「1-0」に換えること。競った試合をモノにする、プレーの質の向上だ。
連動して高い位置からプレッシャーをかける、チームとして狙いをもった守備の戦術に取り組んでいるが、行徳浩二監督は松本戦後、「ああいう形で放り込んでくるチームに対しては弱いという印象がある。岡山、北九州のようなチームには、ある程度奪って攻撃が出来るけど、DFラインの戦いが多い試合は力負けしてしまうのが課題」と話している。ボールにプレッシャーをかけきる前に長いボールを蹴られ、バックラインでの競り合いとセカンドボール勝負に持ち込まれるケースが多い。ボランチの服部年宏、李漢宰が戻れるうちはそつなく対応できるが、松本戦でも「前半の終わりごろに2人の足が止まったところで、真ん中に侵入され、DFラインも下がってしまうし、もしくはファールが増える」(行徳監督)と相手ペースに持ち込まれた。今節の山形もフォワードが常に裏を狙うチーム。田中秀人の負傷で不動のディフェンスラインに変更がありそうだが、プレス連動のタイミングを合わせ、「いい状態で蹴らせない」対応の完遂と勝点3獲得をめざす。
岐阜を迎える今節、08年の記憶は否が応でも蘇る。J2昇格組の岐阜との初対戦は3-5と衝撃のスコアで敗戦を喫し、J1昇格を果たしたその年の対戦で1勝2敗と負け越している。当時とはチーム編成も、両クラブを取り巻く環境も違っているが、順位的なアップセットは常に起こりうるという教訓は、山形のDNAに深く刻み込まれている。相手が最下位であることは勝利を確約するものではない。その一方で、敗戦の記憶を殊更に強調することも、また然り。すべては90分の内容と、そこに至るまでの準備で決する。
以上
2012.05.19 Reported by 佐藤円
J’s GOALニュース
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