待ち望んでいたウイニングゴールに、廣瀬浩二の舌はいつも以上に滑らかだった。
「(J2通算201試合目で点が取れたので)300試合に向けて(マリオカートのように)軽いキノコダッシュができた」
今季は開幕戦から先発の座を射止め、2ゴールを挙げていたが、いずれも勝利には結び付かなかった。FWは勝点3に結び付くゴールを奪わなければいけない。そんな思いを常に抱いていた。だから、廣瀬は口癖のようにこう繰り返した。「自分がゴールを取って勝ちたい」。
チームを勝利に導くチャンスは何度も巡って来た。第11節の鳥取戦ではGKと1対1になる絶好機が訪れた。しかし、シュートは僅かに枠を外れ、0‐1で敗戦。「責任を感じる」。珍しく声を落とした。続く京都戦では先発落ち。地元で200試合出場を飾る機会を逃した。だが、生来の切り替えの早さを武器に、前節の草津戦では再び先発に返り咲き、菊岡拓朗が決めたCKからの直接ゴールに“間接的に”関わった。前節はニアサイドに飛び込み引き立て役に回ったが、今度は違った。上手くニアサイドに潜り込むと、高木和正の正確無比なボールを頭で後方へすらし、ゴールネットを揺らした。69分からの再開試合がスタートしてから4分後、73分に2点目をもたらした。追加点を奪われた福岡は意気消沈。「立ち上がりに向こうにセットプレーで取られた時点で勝負は決した」とはGK神山竜一。相手に与えたダメージは計り知れないほど大きかった。「僕等がやって欲しいなと思っていることをやってくるのが浩二」。松田浩監督からの厚い信頼に、ようやく最上の結果で応えることができた。
21分と限られた時間の中で、ビハインドの福岡は“よそ行きのサッカー”を選択し、1点のアドバンテージを持っていた栃木は“普段着のサッカー”を貫いた。福岡はファーストプレーのゴールキックから古賀正紘を前線に張り付け、パワープレーを敢行。「単純にゴール前の人数を増やしてゴールの回数も増やす」(前田浩二監督)狙いは、栃木にしてみれば想定の範囲内だった。「逆に上手くうちの戦い方にハマった」とチャ ヨンファンが振り返る通り、古賀にはチャとパウリーニョがダブルマークし、さらには前線から棗佑喜も状況に応じて加勢。完全に福岡の思惑を絶った。一方の栃木は「交代も含めて準備したことが全部出せた」(菊岡)。棗は自陣でも敵陣でも制空権を譲らず、菊岡は持ち前のキープ力を活かしてタメを作り、高木は相手のロングボールの精度を落とすために果敢にアプローチし、菅和範は球際の激しさでイニシアチブを握った。浮足立つことなく、それぞれが自らの役割を忠実に遂行し、レアゲームの勝機を引き寄せた。
試合を引っ繰り返せなかった福岡の2失点は、再開前も再開後もセットプレーからだった。前節の山形戦ではロングスローを起点に同点弾を奪い、セットプレーコンプレックスを克服したかに思われたが、またしても同じ轍を踏んでしまった。「もっとひとり一人がボールに強くいければ失点も減る」とGK神山が言うように、セットプレーの対応は気持ちが占める割合が少なくない。相手よりも先に触る基本に立ち返り、今季から導入したゾーンでの対応の精度を上げていきたい。高い得点力を活かすためにも、まずは失点を減らすことが上位浮上に向けて急務となるだろう。
「(草津戦の前半終了間際の)失点はよくなかったけど、集中を切らさずに後半を0に抑えられたことが今日に繋がった。しっかり次に繋げたい」(廣瀬)
前節の終盤、草津のパワープレーに晒されながらもシュート1本に抑えたことが自信を生み、同じく力技に打って出た福岡を零封できた一因となった。点が線になり、少しずつ自信は回復傾向にある。赤井秀行に本橋卓巳と計算できる選手の戦線復帰も好材料だ。自信をさらに深めるのに、中2日で迎え撃つ2位・湘南は格好の相手だ。上だけを目指し、昇格圏まで駆け上りたい。
以上
2012.05.18 Reported by 大塚秀毅