メンバーシートは4−4−2となっていた横浜FMのフォーメーションだが、事実上は4−3−3。マルキーニョスを頂点とする3トップ気味の形となっていた。
樋口靖洋監督はこの布陣について「横並びの2トップでは、相手ボランチの青山敏弘を捕まえづらい。そこをケアするために小野裕二を下がり気味にすると、最前線にはボールが収まるマルキーニョスがいいと判断した」と語った。
さらに広島対策として、ボランチの兵藤慎剛と富澤清太郎の2人をシャドー・ストライカーの石原直樹と高萩洋次郎につけ、1トップの佐藤寿人を中澤佑二と栗原勇蔵が挟み込む形をとった。
だが、試合開始当初、広島は横浜FMの「対策」を上回る勢いを見せた。
1分、石原のポストプレーから左サイドにボールを振り、山岸智のクロス。ファーサイドに逃げた佐藤のヘッドはバーを直撃。6分、佐藤が右サイドに振り、ミキッチがクロスを入れる。ペースを握った中で飛び出したのが、青山敏弘のロングシュートだった。
センターサークルからさらに自陣より、60mは優に超える地点からGKの位置を見極め、豪快に右足を振る。ボールは強烈なスピードで天空を引き裂き、あっという間にネットに突き刺さった。
2006年の対鹿島戦、青山のプロ初得点は30m強のミドルシュートであり、2008年の対岐阜戦には相手GKのクリアボールをダイレクトで叩き込む約40m強のゴールを記録するなど、彼のシュートレンジはとても長い。練習後は居残りで何本も何本もシュート練習を積み重ね、武器を磨き続けた。その不断の努力が、この歴史に残る超ロングシュートとなって結実したのだ。
本来なら、これほどの素晴らしいゴールを勝利でサポーターと共に祝いたいところ。だが、そうはいかなかった。この失点以降、横浜FMは闘志を燃やして広島にぶつかってきた。その起点となったのは、オーバー30のベテランたちだった。
右に左に、前に後に。自由にポジションを動かす中村俊輔から繰り出される何気ないパスの数々は、常に危険な香りを漂わせ、ポゼッションの中心にもなった。左サイドのドゥトラはミキッチの突破を完封、正確なスペースへのパスで小野や齋藤学らU-22の若者たちを走らせ、チャンスをつくった。中澤佑二は34分、青山からのパスで抜け出した石原を必死に追いかけ、ペナルティエリアの中での完璧なスライディングタックルでピンチを救った。
そして、マルキーニョスだ。広島の最終ラインに対して積極的なプレスを仕掛けてパスコースを限定させる。ポジションを縦に上下動させ、中盤でボールをキープし、最前線に走るという動きを連続して行った。サッカーを熟知する彼らベテランのプレーが、横浜FMにリズムをもたらしたのだ。
38分、左サイドを横浜FM・小野が緩急を使ったドリブルで引き裂く。正確なクロス。ただその落下点にいた山岸は「クリアできる」と確信していた。だが、マルキーニョスは先にボールに向かって飛び上がり、上からのしかかるような圧力をかけて山岸の自由を奪い、正確なヘッドをニアサイドに叩き込む。これぞ、マルキーニョス。日本で12年目のシーズンを迎えた偉大なストライカーの通算111点目は、スタジアムの空気をガラリと変えた。
一方、広島のギアはなかなか上がらない。「運動量が少なかったことが全て」と森崎和幸は語る。動く量が足りないから、ボールを持っている選手へのサポートが少ない。必然的に選択肢が少なくなり、分厚いポゼッションができずに単発の攻撃に終始。70分には佐藤寿人が決定的なシュートを放つも、主導権を握るには至らない。
71分、奮闘したマルキーニョスに代わって、やはりオーバー30の大黒将志が出場。77分、右サイドで小野がボールを持ったその瞬間、Jを代表するストライカーはファーサイドに逃げてクロスを呼び込む。ダイビングヘッド。西川周作が弾いたものの、齋藤学が詰めてゲット。その6分後、中村のCKを富澤が突き刺し、勝負を決めた。
試合前、佐藤寿人が「大黒くんはいい動きをしている。要注意」と語っていたが、その予言が当たった。試合を支えるベテランと走る若者たちがガッチリと噛み合った横浜FMは4連勝、勢いは本物だ。
開幕4試合で3完封。「守備の安定感が余裕を生んでいた」(森崎和)広島だが、その後は7試合連続失点。この試合ではキャンプからこだわっていたボールホルダーへの「寄せ」が甘くなり、クロスを自由にあげられてしまった。守備意識の再構築を迫られていることは、疑いない現実である。
昨年も10試合終了時点では今季と同じ勝点19で3位につけていた広島。だが11試合目の川崎F戦で敗戦して以降、2勝1分5敗と急激に下降してしまった。今年も同じ轍を踏むのか。成長を見せてくれるのか。真価を試される時期が来た。
以上
2012.05.13 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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