愛媛、岡山、大分と３試合連続引き分け。スコアを見ると、連敗した栃木戦、松本戦から、熊本は５試合連続無得点という状況にある。しかし松本戦の惨敗を境に、ピッチで戦うにあたっての原点とも言える、ボールへの寄せや球際でのボディコンタクトをいとわない激しさ、そして前へ出ていく姿勢を取り戻し、内容は確かに上向いてきた。そうした土台をわずかずつでも積み上げながら、短いスパンで続くゴールデンウィークの連戦にあって負けずに勝点を加えていることは、前向きに捉えるべきだろう。

そんな中、前節の大分戦は、ここまで攻撃の柱だったMF養父雄仁が急遽体調不良を訴えて欠場。代わりに藏川洋平がボランチとして出場し、中盤の要所で相手の流れを食い止める働きを見せた。また、これによってコンビを組む原田拓も思い切ったアプローチが可能になり、最終ラインも「前が限定してくれることで守りやすかった」と振り返る等、結果として使えるオプションが広がったと言える。
ただ、高木琢也監督は１日の練習後に「疲労の蓄積を考えれば、元気な選手を出さないときつい」と話し、今節の先発も思案中の様子だった。そのため、いい流れで迎える試合とはいえ、コンディションを考慮して前節から多少メンバーが入れ替わる可能性はある。しかしいずれにしても、前節のような張りつめたゲームの後はやや緩んでしまう傾向が過去にもあった点を踏まえると、緊張感と集中力を持続したうえで、なおさらチームの総力で臨まなくてはならない一戦となる。

さて、迎える東京Ｖは現在６位。前節は山形に敗れこそしたが、シュート数（16−５）にも表れているように内容では圧倒した。高木監督以下、熊本の選手たちも口を揃えるが、ボール扱いも含めた個の能力に関してはクラブの伝統的なカラーが受け継がれている。得点ランクでも上位につける阿部拓馬をはじめ、西紀寛、小池純輝らサイドも含めた攻撃陣は、上手さと速さ、強さも備え、熊本にとっては脅威。その前線を操りチームのスタイルを支えているのが、最も警戒が必要と高木監督も名前を挙げるボランチの和田拓也である。バランスをとりつつ守備から攻撃へのつなぎ役をこなすにとどまらず、前に出てきてミドルを狙う力も。
そうした力のある選手たちが連動してチーム全体の早いサポートが形となり、詰まってもボールを動かしながら作り直してバイタルを攻略、あるいはスピードを生かしたサイドからの突破を絡めてチャンスを数多く作っている。総得点17はリーグ３位で、１点取ることによってチームが勢いづくことは間違いない。

ではそうしたチームに対してどう対応するか。ポイントの１つは、大分戦後の会見でも高木監督が話したように、前節できたこと、この３試合で再確認し高めてきた部分を継続することだ。さらには、押し込まれる時間が長い中でも最終ラインで組織的に落ち着いて対応し、３倍以上のシュートを打たれながらも数少ないチャンスを確実にモノにして首位の湘南と遂に勝点で並んだ前節の山形の戦いぶりも、熊本にとっては大きなヒントとなる。
熊本からすれば、この数試合続いた１トップ２シャドウのシステムを採るチームと比べ、東京Ｖの４−４−２に対して最終ラインでは１人余る格好。その分、受け渡しをはっきりさせなくてはならないが、筑城和人、吉井孝輔、廣井友信の３人は「信頼関係ができている分、球際には強く行けるようになっている」と手応えを感じており、両ウイングバックやボランチともコミュニケーションを取りながら、グループで対応して抑え込めるかがカギ。例えボールを握られる時間が長くなっても、最終的な局面で跳ね返し続けることができれば、精神的に圧力をかけて相手を焦らすことにもつながる。とにかく「乗せると良くない」（高木監督）相手だけに、早い時間に失点せずに流れを引き寄せ、試合自体のペースを掴みたい。

そしてもちろん、勝点３を少しでも近づけるには、最後の仕上げとして得点というスパイスを加える必要がある。大分戦のように出足で相手を上回っていい形でボールを奪うことができれば、いい形で攻撃につなげ、両サイドバックの裏のスペースを陥れる確率は高まる。守備から攻撃への切り替えの速さと、前節・大分戦で見られた前の出入りを繰り返すことで東京Ｖの守備をはがし、シュートで終えることを意識できるかもポイントになろう。
「しっかりやれば、こういうゲームができることを証明している途中だと思う」と、大分戦のあと廣井は口にしている。それを結ぶには、１ヶ月ぶりの得点と勝利が必要だ。

以上

2012.05.02 Reported by 井芹貴志