首位の力を見せつけられた。79分、「トレーニングの姿勢もよくモチベーションも高かったので、いいタイミングで入れてあげたいと思っていた」と、曹貴裁監督がピッチへ送り出した大槻周平がJリーグ初出場を飾るプロ初ゴールを決め、ついに湘南が逆転。先制しながら2度追いつかれていた熊本にとっては、前節の町田戦同様に相手陣内でのミスからボールを奪われてカウンターで失点する悪い流れである。
だが序盤からプレーを通して表現されていた気持ちは潰えず、この試合で初めて追う展開となった残りの約15分間、熊本も湘南ゴールをこじ開けるべく前へと圧をかけた。果たして87分、養父雄仁の右CKを湘南DFがクリアすると、ボールはこぼれ球を待っていた武富孝介の足元へ。その17分前、鳥取戦での藤本主税のトラップを思い起こさせるような形で決定機を迎えながらシュートチャンスをフイにしていた武富は、今度は迷わず右足を合わせる。ややアウトにかかったボールは湘南DFの僅かな隙間を抜け、終盤に好セーブを重ねて流れを引き寄せる原動力となっていたGK阿部伸行が伸ばした手をも抜け、ゴールイン。土壇場で熊本が追いついた。
勝点3こそ逃したものの、連敗を2で止め、同時に湘南の連勝も止めた。「追加点を許していれば引き分けも何もなかったし、結果として追いついた、そういう状況を作ったということが、選手たちがゲームをコントロールした証だと思います」と、試合後の会見で高木琢也監督が述べているように、内容的には熊本が主導権を握ったゲームであったと言える。その要因は、湘南の曹監督が「サッカーの本質を教わったような」と表現した球際の激しさから、セカンドボールの争いで湘南を圧倒した点にある。
湘南のハイプレッシャーをいなそうとシンプルに前線にボールを預けて前後を伸ばし、1トップに復帰したファビオが左右に流れたり時に中盤まで落ちたりすることで相手を動かし、シャドウの武富と五領淳樹も合わせて微細にポジションを調整。タッチライン際では片山奨典と大迫希が厳しく寄せ、こぼれたところにはボランチの原田拓と養父が身体を張ってフォローした。湘南がボールを持った際には5-4-1とも取れるラインを形成してスペースを消し、湘南攻撃陣のモビリティを無力化。前半に限っては、馬場賢治に得点を許した22分と、その直前に右サイドから永木亮太にドリブルで持ち込まれて高山薫にシュートを許した場面以外、チャンスらしいチャンスを作らせていない。
一方の湘南も後半に手を打って流れを引き寄せたのはさすがだった。特に前半に増して中盤の押し上げが見られるようになり、前へのスピードをいかしながらも熊本のアプローチをはがしていくボール運びは、まさしく「目指すような攻撃」(曹監督)。55分に今シーズン初ゴールを決めた古橋達弥が「もうちょっとゲームをコントロールして、守るところは守って落ち着いた試合展開にしたい」と話したように、今季初めての複数失点には課題が残るが、そうしたリスクを差し引いても「できるだけ敵陣でサッカーをしようというコンセプトで、前へのエネルギーを失わないチームに」(曹監督)という理想像は、どんな相手に対しても一貫している。交代選手が結果を残すなどチーム内で健全な競争が促されていること、そして連敗が止まったことより負けなかったことをポジティブに捉えつつ、リーグ戦の長いスパンでなく目の前の一戦一戦に力と気持ちを注いでいることは、次節の鳥取戦でも形として表れるだろう。
熊本は、先制点につなげた浮き球のコントロールや、右サイドでの崩しから2点目を生んだボールキープなど初先発の五領の働きが光ったが、得点場面を振り返ると、廣井友信の先制点も大迫の2点目も、3ゴール全てがルーズボールにうまく反応した形。2節の鳥取戦を迎えるにあたり、開幕戦で喫した福岡の坂田大輔のシュートに見られた「打つ判断」を注目ポイントのひとつに挙げたが、この試合ではそれがプレーに表現され、湘南の2.5倍を超える今シーズン最多18本のシュートにつながった。「たぶん湘南戦でなければこういうゲームにはなっていないと思う」と高木監督も触れている通り、取られても取り返しにくる湘南のスタイルがそうさせた一因でもある。しかし今季のテーマのひとつである「相手のボックス内に多く入る」ことを実践し、シュートを打てるポジションを取れていたからこそ、ゴールとなって結実したと言っていい。
ただし、勝ったわけではない。「クリアの質とか、ごちゃごちゃしたところで自分たちがどういうポジションを取るかが課題」と廣井が振り返っているが、失点はいずれも、的確にセーフティな対応ができていれば防げた可能性が高い。諦めずに打ち合いを演じて見応えのある試合になったことは確かだが、顔ぶれが固定されていない点も含めて3バックの連携や全体での守備はまだまだ発展途上にある。それでも、この試合で見せた戦う姿勢、ゴールへ向かう気持ちを思い出したことで、「感じたことも多かった」(原田)試合ではあった。勝点1を得たこの試合をターニングポイントにできるかどうか。その真価が問われるのは1週間後の岐阜戦である。
以上
2012.03.26 Reported by 井芹貴志
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