「前へ運びながらのポゼッションができた」(甲府・城福浩監督)
「もっとボールを保持して前を向いていくことを意識してやっている」(横浜FC・杉山新)
試合後のコメントで、横浜FC、甲府の両者から、「前へ向いてのポゼッション」という同じキーワードが出てきた。電撃的な監督就任から3日間の練習で、山口素弘監督が植え付けようとしたのは、運動量で数的優位を作り続けるサッカーから、ボールを大事にしてポゼッションをしていくサッカーへの転換。山口監督の「非常に悪い状況だったので、まずボールを動かして、ボールを受ける作業をいろいろやった」というコメントからも、その方向性は見られる。しかし、横浜FCが積み上げた3日間と、甲府が積み上げたキャンプからの2ヶ月半の差は、正直な形で試合の結果に表れた。
横浜FCは、前節東京Vを完封した最終ラインをそのまま踏襲してスタートする。しかし、前節と異なるのは、相手の2トップの迫力。高崎寛之、ダヴィの2トップに対して、森本良、中野洋司のセンターバック2人が対応しきれず、自由にポストプレーをさせてしまう。「僕も森本も背が高くなく、全部を跳ね返せる感じではないので、入った時に周りとの連携で仕事をさせないように対応していました」(中野)というように、当初からの想定通りだったが、この日の甲府は2トップへのサポートの距離感が素晴らしく、横浜FCのゴール前を何度も脅かす。一方の横浜FCの攻撃は、ポストプレーで頼みとする大久保哲哉をドウグラスがほぼ完封。起点をまったく作れない状況になる。本来であれば、大久保に頼るだけでなく、チーム全体でポゼッションしながら別の攻め手を探らないといけないが、前節サイドバックが上がらないことで成功したDFラインとの整合性がとれず、ボランチより前にボールを運べない状態が続いた。
それでも、横浜FCは最終ラインで体を張って失点を防いでいたが、43分、ロングボールにダヴィがつぶれて裏に抜けたボールに高崎が反応。冷静にファーサイドに流し込んで甲府が先制する。35分にはダイレクトパス2本でフリーになった大久保がシュートを放つ決定機もあり、少しリズムが出てきた後での失点だけに、横浜FCにとってのダメージは大きかった。
横浜FCは後半開始から、DFラインからのビルドアップを強化すべく、右サイドバックに杉山新を投入。この杉山がドリブルで持ち上がる場面を何度か作るなど、ビルドアップ、ポゼッションという意味では改善が見られたが、その時間も長続きしなかった。そして、67分の甲府のFKで、山本英臣が横浜FCの壁をふわりと越えるボールを出すと、ダヴィが反応し、ゴールにたたき込んだ。「横浜FCの選手が、体に当ててでも防ぎたい感じだった」という観察から出た冷静な好判断が生んだゴールだった。このゴールも、横浜FCが前への推進力を上げるために野崎陽介を投入して3分後の失点。好転の芽を2回摘まれる形での失点のダメージは大きかった。その後、横浜FCは77分に三浦知良を投入するが、甲府の組織的に連動する守備に穴を開けることができず、終わってみればシュート数は横浜FC5本に対して甲府22本、コーナーキックも横浜FC3本に対して甲府が14本と、結果、内容共に甲府が完勝と言えるゲームとなった。
横浜FCは、ポゼッションを意識した練習内容に変えて3日。山口監督は「ディフェンスの練習はほとんどしていない」と述べたように、前節の強固な守備をベースにするよりも、ポゼッションの意識付けをこの試合のテーマとしていた。しかし、この日の甲府相手にはそのポゼッションを出すことはできず、そのため中途半端さが残ってしまった。前監督のサッカーは、運動量とポゼッションが戦術の中心であり、ポゼッションの要素もあったが、そのレベルアップが出来なかったことが低迷の原因となった。この甲府戦では、その点での改善効果が発揮できなかったことで、以前と同じような内容の敗戦となってしまった。しかし、ポゼッションの強化というのは、横浜FCの根本的な強化という意味で避けて通れない要素であり、次の草津戦までの1週間で、いかにレベルアップできるか。「ファイトが燃えてきた」と語る山口監督の手腕が問われる1週間となる。
一方の甲府は、前節の悔しい敗戦をバネに、レベルの高いサッカーを披露。ダヴィと高崎の2人だけでも攻撃を作り出すことができるだけに、サイドバックの攻撃参加などはあまりしなくても良い状況であったが、それでもチーム全体で距離感を保ち、連動するサッカーを90分間キープできたことの成果は大きかった。「日々、次節の方が強いチームになっていたい」という城福監督のコメントは、ピッチ上の選手のプレーそのものを的確に表しており、今の甲府の強さを感じるゲームとなった。
ポゼッションを生かしたサッカーという面で、お手本のようなサッカーを披露した甲府を目の当たりにして、横浜FCはどう新しいサッカーを構築していくか。甲府でポゼッションサッカーをたたき込まれた杉山は、「これから見ていてください」と鋭い目で語ってくれた。このお手本を前に、横浜FCがどのように成長できるか。苦しいが、そのスタートラインにすべきゲームだと思う。
以上
2012.03.26 Reported by 松尾真一郎
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