水戸にとって簡単な試合にはならない。そう確信したのは、試合前に松本のキャプテン・飯尾和也のこの言葉を聞いた時だ。「今年のチームは昨年よりも戦えるチームになってきている。どんな試合でもまずは『やり切る』ことをテーマにできている。ただ、まだ甘いところがあるのは事実。勝った後に緩んでしまう。それが出たのが前節。だから、今節はもう一度気持ちを引き締めて戦わないといけない。この一戦が本当に大事になる」。
「このゲームは押されるにしても、勝ちたかった」と反町康治監督が言うように、松本は闘志をむき出しに水戸に挑んで来た。やや低い位置に守備陣形を整え、水戸の中盤に対してタイトなプレスをかけ、球際での争いも気迫に満ち溢れていた。プレスをかいくぐられると、すぐに帰陣してゴール前を固め、水戸のシュートに対して体を投げ出す。「今やれることを全力でやるしかない」(反町監督)と、徹底して守備を固めて、そして一瞬の隙を突いて勝機を見いだそうとした。
その相手に対して、しっかり点を取って勝ち切ることができるか。水戸にとって「J1昇格」を目指すチームの資質を問われるゲームとなった。だが、水戸は「リトリートした相手を攻め慣れていない」(柱谷哲二監督)という課題を露呈してしまう。松本のタイトなプレスとスリッピーなピッチに苦しみ、中盤でミスを連発。ボールを奪われてカウンターを仕掛けられる場面もあった。
特に前半は水戸の攻撃の肝であるボランチが機能しなかったことが痛かった。村田翔とロメロ フランクのダブルボランチがボールをうまく引き出せずに効果的に攻撃を組み立てられなかった。「前半は寝ていた状態。反応が遅かった」と柱谷監督が不満げな表情で振り返るように、不完全燃焼のまま45分を終えた。
ただ、そのまま90分行かないのが、今季の水戸だ。後半はボランチの村田がやや下がった位置でボールを受けられるようになり、そこから鋭い縦パスを入れながら攻めたことによって、攻撃の威力が増すこととなった。中央を起点に左右に揺さぶりをかけて、松本のプレスをいなした。左からは輪湖直樹が、右からは市川大祐が質の高いクロスをゴール前に送り込み、松本ゴールを襲った。しかし、松本も粘りを見せた。ゴール前に人数を集め、水戸の攻撃を瀬戸際で跳ね返し続ける。水戸は再三バイタルエリアまでボールを運び、フィニッシュのアイデアを出そうとするが、集中力を切らさずに対応する松本の守備を崩しきれないまま試合は終了した。
「この勝点1をプラスに捉えたい」と反町監督が言うように、松本にとって勝利に値するドローだ。「よくユニフォームを汚した山雅らしいサッカーができた」という反町監督の言葉通り、どの選手も白いアウェイユニフォームを泥だらけにしながら戦い抜いたことが勝点1につながったのである。決して格好のいい戦いではなかった。しかし、それでもJ2参入1年目の今季はどんな戦いであろうとも勝点を積み上げていくことが求められる。特にアウェイで勝点を取ることは、非常に大きな意味を持つ。試合後、飯尾は「最低限の戦いはできた。これを続けることが大事」と引き締まった表情を見せた。「戦う」というベースができつつある松本。これからさらに手ごわいチームとなりそうだ。
1点を取るための力が足りなかった。水戸が勝てなかった原因はこれに尽きる。選手交代でパワーを加えられなかったことも水戸の現状の力と言えよう。ただ、水戸が悪いサッカーをしていたかというとそうではない。引いた相手に対して、むやみに突っ込まず、冷静にボールを動かしてチャンスを作った。「フィニッシュの精度」という課題を露呈したが、そこまでの流れは質の高いものであった。
ただ、それが水戸を苦しめる結果となった。水戸が一方的に攻撃を仕掛けたことが、松本の守備の集中力を高めるという事態を招いてしまったのだ。松本は反撃の糸口を見つけられなかった反面、守備にパワーを注ぐことができた。徹底的に守備を固めるチームから点を取ることはJ1のチームだって、日本代表だって難しい。水戸にゴールをこじ開ける力が足りなかったことは事実。ただ、同時に「これだけ水戸を相手に引いてくるチームははじめて。それだけ水戸の力を認められたということ」(柱谷監督)でもある。
J2参入1年目のチームからゴールを挙げられず、勝利も逃した。結果を見る限り、現段階では「J1昇格」を果たす力がないと言わざるを得ない。とはいえ、偶然性に頼るのではなく、意図をしっかり持ってプレーして多くのチャンスを作り出すサッカーができていることを決して悲観すべきではない。試合ごとに確実にチームは進歩している。「結果にこだわる」ことが今季の水戸のテーマであるが、まだ完成したチームではないということを忘れてはいけない。今季も水戸は戦いながら強くなっていくチームである。こじ開けられなかった「1点」はこれからの伸びしろと捉えたい。
「J1昇格」を目指す資質を追い求め、これからも水戸は戦い続ける。必ずそれが大きな「力」となる。
以上
2012.03.25 Reported by 佐藤拓也
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