ポポヴィッチ監督は「サッカーの世界ではよくあることだ」と言いつつ、顔を赤くした。指揮官は結果を諫めるつもりはなかった。今季からJ1に昇格したクラブがACLに出場して韓国の強豪クラブに2−2。勝点1を積み上げ、2試合を終えてグループFの首位に立っている。この結果は上出来だろう。それでも、ポポヴィッチ監督の喋る言葉は語気を強めた。「隙を見せてしまった。90分間で勝ちきる経験が我々には足りなかった」
ゲームは、残り10分から得点を奪い合うスリリングな展開を見せる。
DF徳永悠平のゴールで前半37分に先制した。右CKをペナルティエリアの外でボールを受けた徳永はドリブルで進むと、浮き球でGKの上を抜いて決めた。
その1点のリードを守りきって迎えた80分、蔚山MFキムスンヨンにゴールを奪われて追いつかれてしまう。その3分後に、MF梶山陽平が勝ち越しの得点を挙げたが、再び88分にはFWマラニョンが蹴りこんだボールによってゴールネットが揺れた。
一味違う経験だった。1−0、1−1、そして2−1。この順序の後に、2−2になる結末は、F東京の選手たちにとって経験則の外の話だったのかもしれない。1度は同点に追いつかれたものの、そのわずか3分後に勝ち越しゴールを奪った。相手の心を折るには、十分なはずだった。
しかし、蔚山に諦めは微塵もない。最後までゴールを目指し、試合開始から徹底してきたF東京の背後を狙い続けた。「しっかりと分析できている」という自信は、このダイレクトプレーにあったのだろう。最終ラインを高く保つF東京には、この戦い方で得点を奪うことができる。実際に手数をかけずにロングボールからこぼれ球を拾って1−1にも追いついた。それが、必ずチャンスはくるという支えになっていた。
「最後まで戦った選手たちを賞賛したい」という蔚山キム・ホゴン監督。残り時間は2分。F東京は、その相手に与えてはいけない一瞬の隙を見せた。ポッカリと空いた左サイドにマラニョンがフリーで走り抜け、GK権田修一の鼻先を抜くループシュートを沈めた。高い代償を支払い、勝点3は1へと化けた。
アジアを戦うことを肌感覚で知ったはずだ。容易に抜けられるわけはない。MF高橋秀人は試合展開に反して「時間を長く感じた」と言う。個々が考えるゲームプランは恐らくあったはずだ。実際に、前半は森重真人が「もっと距離を近くして回そう」と、最終ラインからのビルドアップのやり方を変えてゲームの流れを作っていた。それなのに60分過ぎからのチームとしての選択はあいまいに見えた。前線からのプレスが弱まるのを見越して後ろを重くする時間も必要だったのかもしれない。そして、後ろから時間を掛けてボールを保持して回せば、もっと楽に試合を終わらすことができたはずだ。
だが、蔚山は、それを考える間も与えてくれない相手だったといえる。高橋は「単純なことだけど、もっと指示の声が増えていかないといけない」と話す。思考し、判断し、実行へと移す。すべてにおいてもっと速度を上げていかなければいけない。
引き分けの悔しさは残る。ただし、失った勝点2の代わりに得たものもあった。アジアの強豪と目される彼ら以上の試合をした。蔚山の監督に言わせた「この結果は予想外」という言葉は最大の誉め言葉だ。未踏の地だったはずのアジアでの戦いに、自分たちの足が踏み込んだことを知ったのも事実だ。“TOKYO”からアジアへと発信する。その目的は、いいサッカーと勝利によって説得力を持つ。だからポポヴィッチ監督は1つのことだけを試合後のロッカールームで選手たちに伝えた。
「この勝点2は相手へのプレゼントだ。アウェイではそれを取り返すぞ」
以上
2012.03.21 Reported by 馬場康平
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