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【ヤマザキナビスコカップ 浦和 vs 仙台】レポート:浦和は粘り強い戦いぶりでホーム2連勝。仙台は面白い仕掛けで優位に立つも結果が出なかった(12.03.21)

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「かなり我慢の時間が長かった。自分たちがボールを取っても早く失うことが多く、チームとしてうまく機能しなかった」。最後尾から状況を見守っていた山岸範宏は冷静に試合を振り返った。浦和は劣勢を強いられながらも、永田充がセットプレーから奪った虎の子の1点を守り切った。
「ずっと仙台のペースだったし、ポゼッションが高い時間が長かったし、相手の1本のセットプレーが入っただけなので」。上本大海の言うように、ほとんどの時間で試合の主導権を握っていたのは仙台だった。内容は良かったが、結果がついてこなかった。「なんか負けた気がしない」と悔しがるのも無理はない。

試合の入りは浦和も悪くなかった。開始7分には宇賀神友弥のクロスに山田直輝が飛び込む形でチャンスも作った。「立ち上がりはそんなに悪くはなかった」と柏木陽介も振り返っている。だが、その後は仙台がペースを握っていく。浦和は後方からのビルドアップを図ったが、「ボランチが引いてつないだりしていたので、そこをしっかりつかまえて前からどんどん奪っていこうという狙いもあった」(武藤雄樹)という仙台のプレスをかわせず、リズムを作れなかった。
浦和は守備でも後手を踏んだが、仙台のボール回しのカラクリが見事にはまった。浦和は守備時にリトリートして5−4−1という形になるが、相手のビルドアップに制限をかけにいくのはだいたい1トップ2シャドーの3人だけ。残りの5−2は待ち構える形を取ることが多いが、仙台はその守り方で薄くなる部分を意図的に突いてきた。

「あっちのDFラインが下がるというのと、(2シャドーが前に来て)ボランチの脇が空くというのはスカウティングで事前に言われていた」(武藤)

具体的な動きを見ていくと、まずはDFラインとボランチを中心に数的優位を作り出して浦和の前線3枚をかわす。面白いのはここからだ。仙台は左サイドでゲームを作った時に押し込むことが多かったが、その際に鍵を握っていたのが武藤の動きだ。
武藤は4−2−3−1の右サイドハーフがスタートポジションだったが、左でゲームが作られた場合は定位置の右サイドにはおらず、中央でプレーすることが多かった。あるときはボランチまで落ちてゲームメイクに関与し、あるときは最前線に顔を出してFW役を担った。右サイドの選手なのに、右サイドにいない。バルセロナの“Falso 9(偽センターフォワード)”ならぬ、“偽サイドハーフ”として暗躍した。

その動きで生み出されたのは、ピッチの半分側に中盤の選手が集まるという現象だった。逆サイドの選手が中に絞り、トップ下の太田吉彰も中央からボールサイドでプレーする。仙台はボールサイドに人が集まり、スカウティングに基づいて浦和のボランチ脇で数的同位、あるいは数的優位を作って仕掛けた。当然、浦和はマークをつかまえきれず、特に自由に動く武藤には手を焼いた。
その動き自体は個人の判断に任されていた。「攻撃のところでどこにいろとか細かい指示は受けていない。僕は運動量も特徴だし、もともとはFWの選手なのであまりサイドに張っているだけだともったいないというか、もっといろんなことができると自分で思っているので、そういう面でいろんなところに顔を出そうと思っていた」。

だが、ボールサイドに2列目の選手が集まる形は、共通意識を持って仕掛けたことで生まれたものだった。「試合前に関さん(関口)と吉さん(太田)と話をして、中盤の前の3人で距離を近づけてみようかと話していた」と武藤。仙台の一連の攻撃は背番号19を中心にした意図的な仕掛けから生み出されたものだった。
もっとも、左サイドでゲームを作ることが多かったのは意図的ではないらしく、武藤は「関さんはボールを引き出してためるのがうまいし、僕はゲームを作るタイプじゃないので」と苦笑いしていた。

一方の浦和も、攻勢をかける仙台に対して全く手が出なかったわけではない。ポゼッションでリズムを作ることはできなかったが、ボールを奪ってからの反攻では何度かいい形を作った。1トップ2シャドー、2人のウィングバックの計5枚が前に出ていけた時は、数的同位、あるいは数的優位を作ってチャンスが生まれた。大きなサイドチェンジや、中から外の流れで作った決定機はだいたいそういった形から生み出されたものだった。

試合はセットプレー1本で決まった。優勢だった仙台としては白星が欲しかったところだろう。ただ、「チームとしては自分たちの可能性を高められるようにと、敵地で落ちついて自分たちが目指しているものを表現しようと戦った」という手倉森誠監督の狙いは表現できていた。「浦和相手にここまでできたのも、いろんな選手が挑戦していたからだと思うし、自信になった」と上本も胸を張る。

一方、浦和はリーグ戦からメンバーを大きく入れ替えることで、控えの選手たちにも今季のスタイルに挑戦する場を設けることができた。「リーグ戦になかなか関われない選手がこうやって結果を出して底上げができているのもよかったと思う」と宇賀神は言う。この試合で仙台は自信を、浦和は結果と経験を手にすることができた。そういう意味ではお互いに得るものがあったゲームだった。

さて、それとは別に最後に1つだけ。この試合ではたびたびフィジカルコンタクトの激しいプレーが見られたが、ラフプレーも目立った。激しい球際の攻防はサッカーの魅力の1つだが、一線を越えたプレーは暴力でしかない。熱気は必要だが、狂気は無用だ。激しく、それでいてクリーンなファイトでスタジアムを沸かせてもらいたい。

以上

2012.03.21 Reported by 神谷正明
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