リニューアルされた日立台により、柏サポーターの応援のボルテージは試合開始前から最高潮に達していた。増設されたゴール裏のスタンドは文字通り高くそびえ立ち、一面を黄色く染めたサポーターには、ピッチを飲み込むかのような迫力が感じられた。
そんな雰囲気に後押しされたアグレッシブな意識を持つ柏と、その柏に横浜FMも呼応したのか、試合は序盤から見応えのあるハイペースの展開となる。柏がゴール正面30mの位置で得たFKを、レアンドロ ドミンゲス、ジョルジ ワグネルとつないで酒井宏樹がプッシュ。3分に先制すれば、すかさず7分に横浜FMも、中村俊輔の左CKを栗原勇蔵が中央で落とし、素早く反応した大黒将志が押し込んで同点。さらに12分、柏はレアンドロ ドミンゲスを起点にカウンターを発動し、ジョルジ ワグネルのダイレクトパスを田中順也がコースを狙い定めて2−1と勝ち越しに成功した。
ハイペースの展開は、横浜FMの戦い方にも理由がある。「少々長いボールが多かったのはレイソルのことを分析したうえでやった」(樋口靖洋監督)。横浜FMはボールを持てば後方からロングボールを蹴り込み、大黒と小野裕二、この機動力のあるFWが柏のDFラインの背後を狙う策に出る。樋口監督は「もう少しコンパクトな状態を維持しながら、相手にプレッシャーをかけ、マイボールになった時に間、間を使って、展開したかった」と言及していたが、ロングボールが多くなれば、それに合わせてDFラインは後退せざるを得ず、どうしても中盤にはスペースが発生しやすい。するとルーズボールを拾った後は、柏も横浜FMも、相手の陣形が整う前にそのスペース突こうとするのは必然の流れ。前半はそのまま2−1で終わるも、何か落ち着きを欠いた印象の拭えない45分間だった。
「ロングボールの出どころと、出た後のところをケアさせた。特にセンターバックのロングボールをFW2人にケアするように伝えた」(ネルシーニョ監督)。この指示によって、後半は柏のセカンドボールの収集率が上がり、レアンドロ ドミンゲスを起点に酒井、橋本和の両サイドバックのオーバーラップを仕掛けて攻撃に絡むという、柏本来の“地上戦”の攻撃へと転ずる。だが最後のパス、シュートの正確性を欠いてチャンスを逃し続けると、サッカーでは対戦相手に流れが傾く不思議な法則がある。「バイタルが空いていたので、そこでフラフラしようと思っていました」と振り返る言葉通り、齋藤学がDFラインとボランチの空いたゾーンでボールを受け、前を向きドリブルを開始。近藤と増嶋の素早い寄せに前方が遮断されたと思いきや、「コースが空いたので撃ってみようと思った」(齋藤)と、わずかに空いたシュートコースを見逃さず、綺麗に左足で蹴り込む。60分、横浜FMが2−2に追い付く。
しかしその直後の64分、柏はレアンドロ ドミンゲスが魅せる。横浜FM守備陣の寄せも遅れ、“柏のキング”をあそこまでフリーにさせれば、それは「撃ってください」と言っているようなもの。「GKが少し前にポジショニングを取っていたので、その上を狙った」(レアンドロ)。右足アウトサイドに引っ掛けたテクニカルなシュートが弧を描き、GK飯倉大樹の頭上を射抜く。柏が三度勝ち越し。
柏はAFCチャンピオンズリーグのブリーラム戦からわずかに中3日。こうしたハイペースの展開に加え、過密日程がきたす疲労の影響だろうか、徐々に足が止まるとスペースが生まれ、80分以降は横浜FMの猛攻に曝されてしまう。それでも何度か訪れた4点目を奪う決定機で加点できていたなら、もっと楽に試合を運べていたのかもしれないが、3−2のまま迎えたアディショナルタイム。横浜FMは、スローインからの小林祐三のクロスを「信じて走った」という谷口博之が、ニアで増嶋に競り勝ち、劇的なヘディングシュートで柏のゴールネットを揺らす。気迫、執念、魂……、横浜FMの「絶対に追い付く」という思いの込められた力強い同点の一撃だった。
慎重さと手探り感が漂う開幕戦にありがちなゲーム展開とは程遠い、まるでカップファイナルのごとき壮絶な撃ち合いは、客観的に見れば見応え十分、一サッカーファンとしては大いに楽しめた一戦となった。それでも、どちらにとって価値のあるドローかと言えば、それは間違いなく横浜FMの方にある。昨シーズン、前半をリードで終えた試合は15戦全勝という、確実に逃げ切る柏の老獪な術中にははまらず、敗色濃厚にあった終盤に追い付き、敵地で勝点1を手にしたのだから。組織をコンパクトに保てず、柏にスペースを与えてカウンターを浴びるなど戦術面では煮詰めなければならない部分を露呈もしたが、そこはまだ開幕戦。多くを求めるわけにはいかないだろう。
また、柏にとってはディフェンディングチャンピオンゆえに受ける対戦相手から研究し尽くされる徹底マークや、ACLとの併用の難しさなど、毎年シーズン上位チームが苦しむそれらの事象を味わい、掲げる目標である「リーグ連覇」というハードルの高さを改めて知らされた思いがする。もちろん柏らしい展開もふんだんに見せており、追い付かれたとはいえネガティブに捉える必要はないが、今後はACLとの併用を考え、ターンオーバーを敷くためにも那須大亮、リカルド ロボら、新戦力の早急なるフィットが求められる。
以上
2012.03.12 Reported by 鈴木潤
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