「特別な思いは当然ある」。今節に向け、柱谷哲二監督はそう言い切る。3月11日という日に行われる試合の意義について説明する必要はないだろう。「1年が経ち、震災の記憶がちょっとずつ薄れていますよね。でも、絶対に忘れてはいけないこと。昨年、我々は茨城復興のために頑張ろうということで活動しましたが、今年も同じ思いで戦わないといけない」。柱谷監督が力強い口調で語るように、1年という区切りにおいて、改めて水戸ホーリーホックというクラブが戦う意義を確認する場となる。「被災地の茨城の方々に前進していく姿を見せる」(柱谷監督)ことこそが水戸が背負う使命である。
「前進」とは何か。それは勝利である。「昨季はチームのベースを作ることをテーマに戦ったが、今年は勝負にこだわって戦っている。それが昨季と違うところ」と柱谷監督が言うように、どんな形でも勝利するために戦うことが水戸の「前進の証」。それを見せることが多くの人に勇気を与えることとなるのだ。
前節横浜FC戦、逆転勝利を果たしたものの、「内容はまったく満足していない」と柱谷監督は言う。相手の激しいプレッシャーに苦しみ、ポゼッションすることができず、ロングボール主体の攻撃となってしまった。30分過ぎに相手の運動量が落ちたことで主導権を握ることができ、逆転勝利をおさめたが、「全体的にいい関係を作れなかった。開幕に向けて8割ぐらいのチーム作りを目指したが、7割ぐらいしかできていなかった」と柱谷監督が厳しい評価を下すほどチームとして力を発揮できたとは言い難い試合だったのだ。ただ、それでも勝利を手にすることができたことが昨季との最も大きな違いである。点を取るべき時に取って、守る時に守る。昨季までにはなかった“勝負強さ”が開幕戦ではみなぎっていた。
さらなる前進を見せるために求められるのは「連勝」である。昨季は最高で2連勝しかできなかった。「連勝できないチームは上には行けない」と柱谷監督が言うように、今季は「勝ち続けること」が大きなテーマ。開幕で連勝を達成し、昨季からの「前進した姿」を見せ、「茨城の人たちに勇気を与えたい」(柱谷監督)。
対する富山は昨季16位に終わったものの、安間監督のもと築いてきた土台の上に戦力を上積みし、今季は上位進出を見据えている。前線から連動したプレスを仕掛け、ボールを奪ってから素早く攻める攻撃を得意とし、1トップの元日本代表FW黒部光昭のキープ力とゴール前での強さ、左サイドのMFソ・ヨンドクの技術の高さと運動量を生かしながら厚みのある攻撃を繰り広げる。開幕戦ではアウェイで岡山と対戦。先制しながらもPKを献上し、同点で試合を終えた。今節、2節続けてのアウェイ戦という日程に加え、積雪のため週初めの練習だけ富山において室内で行われ、その後は千葉県内で練習を行って水戸に乗り込んでくるというハードなスケジュールを強いられている。肉体的には厳しいだろうが、そうした厳しい環境でメンタル的にはかなり強くなっているに違いない。「勝って次節のホーム開幕戦を迎えたい」という強い思いで挑んでくるはず。水戸は受け身に回ると、痛い目に遭うだろう。
ポイントはサイドの攻防にある。富山は3−6−1というシステムを採用しており、中央に人数がいる分、サイドは手薄となっている。水戸としては、3バックの横のスペースを効果的に突いていきたいところ。しかし、富山もしっかり対応してくることだろう。単調なサイド攻撃では富山の守備は崩れない。だからこそ、「サイドをうまく使うためにも中央での崩しが重要になってくる」(小澤司)。相手のプレッシャーを怖がらず、ボランチを中心に中央でボールを動かせるかが勝負のカギを握る。前節のように相手のプレッシャーから逃げるような攻撃では富山の思うつぼとなってしまう。勇気を持って、中央で起点を作って、富山の守備陣形を揺さぶることができるか。中央を制すことで、勝利が見えてくる。
水戸にとって「特別な試合」となる今節。独特の雰囲気に包まれることが予想される。「普通の心境で戦うのは難しいと思う」と本間幸司が言うように、選手たちにとって難しい試合になることだろう。その中でも「集中して勝ちに行く」(本間)ことが求められる。「いい意味で特別な思いを出せればいい」と新加入の橋本晃司も力を込める。ただ、そうした選手たちの背中を押すものは、サポーターの情熱に他ならない。本間は言う。「サポーターも一緒に被災地で戦った仲間。力を借りながら戦いたい」。スタジアムの熱気と選手の闘志が一体化した時、選手たちは勇気に満ち溢れたプレーを見せてくれるはず。それが勝利につながるに違いない。「町とともに戦う」(本間幸司)水戸ホーリーホックのあるべき姿をあらためて見せつけたい。復興に向け、そしてJ1昇格に向けて、大きな一歩を踏み出さなければならない一戦だ。
以上
2012.03.10 Reported by 佐藤拓也
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