リーグ再開後のスタジアムでこんな会話を耳にした。「どうしたんかな？」「コンディションに問題ありなんかな？」─。杉本恵太について、こうした様々な憶測が湧き出るのも無理はない。開幕戦（３月６日）こそスタメンに名を列ねていたものの、再スタートとなってからは全てラスト10分を切ってからの投入で、前節に至ってはピッチに立つことがなかったのだから。今季の補強の目玉として注目を集め、誰もがその段違いなスピードに期待を膨らませていただけに、現状にはどうしてもネガティブな見方が付きまとってしまう。

だが、心配ご無用。マイナス要素など何もない。事実彼は最近のトレーニングマッチでも抜群のキレと速さを見せ、ゴールという結果も残している。そして彼の生の声を聞けば、シーズン前の期待を変わらず持ち続けるのが間違いでないと確信できるはずだ。今の状況についての質問に対し彼は「試合に出ていいプレーをするのは当然大事なことだけど、チームのムードを盛り上げるのもサブの大事な仕事だと思っています。チームがひとつになって戦うっていうのはそういうこと。だから練習でも試合でも、雰囲気作りは自分の役目のひとつだと思ってやっています」と迷いなく返事。自身の今の立場に前向きな気持ちで向き合い、そこでの最善を常に考える姿勢をハッキリ示してくれたのである。まさにブレのないプロフェッショナリズムであり、だからこそきっと彼ならチームに大きな貢献をもたらしてくれると心から信じられる。

とは言えやはりプレーヤー。自分を表現することへの欲求は微塵もしぼんでいない。「チームがいい方向へ進めるようにするのが自分の役目だけど、もちろんその一方でしっかりアピールして自分の出場時間を増やしていくことも続けていきますよ」と続けた彼の言葉からは強い意欲と闘志が感じられ、近いうち必ずピッチでの存在感をぐっと増してくるであろうと思わずにはいられなかった。

また、次のコメントをぜひ読んでいただきたい。真剣にクラブの成長を願い、そのための行動を惜しまない男、それも杉本恵太なのだ。
「この前、『ホームタウンふれあい活動』として小学校や児童館訪問に行ってきました。そうした活動はフロントスタッフが中心に進めていますが、今後は僕ら選手からもいいアイディアを出して、訪問先のみんなにもっといい時間を過ごしてもらえるよう考えていきたいと思っています。そして訪問先で触れ合う子どもたちには僕らのことをもっと知ってもらいたい。そうすれば知っている選手がいるからスタジアムにも行きたいと思ってもらえる。訪問先の子どもたちとスタジアムの距離を近づける努力は、繰り返し続けていくことが大切なんだと思うんです。
それと、チームが勝つことは応援に来てくれている方々のまた来たいっていう気持ちに繋がるし、周りの人を誘ってくれるキッカケにもなるはずです。だからそういう活動とともに、ホームで勝つことはすごく重要。勝つことで伝えられることがあると思うし、勝ち続けることでもっと多くの方々に来てもらえるようになる。今季ここまでホームでは負けてないですから、これからも勝ち続けられるよう最大限の努力をしていきますよ」

プレーの魅力だけでなく、こうした人間性も持っているからこそ古巣・名古屋でも多くのファン・サポーターから愛されたのだろう。そして、そんな彼が今徳島にいることをとてもうれしく誇りに思う。

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2011.05.19 Reported by 松下英樹