超一流選手でも移籍に伴う環境の変化に戸惑うことは多い。日本人でも他クラブへ移籍すれば順応するのは容易ではない。ましては海外移籍ともなれば、その困難は数倍にも膨れ上がるはずだ。

一朝一夕に事が運ばないのは理解しつつ、期待値があまりにも高いために、なかなかチームにフィットできていないトリポジに物足りなさを感じているのは事実。ただ、先週と今週の紅白戦ではゴールを挙げ、Ｆ東京とのトレーニングマッチでも右からのクロスを頭で合わせるなど、徐々に本来のパフォーマンスが散見されるようになってきた。トリポジ本人が日本の食生活、そして栃木のサッカーに慣れて来たこともあるが、チームメイトの気遣いが少なからずパフォーマンスの向上に繋がっているように見て取れる。

「レオン（トリポジのニックネーム）、悪くないよ。悪くない」。ＤＦラインから積極的にトリポジに声を掛け、トレーニングの合間には自ら歩み寄って会話をする大和田真史の気配りが際立つ。

「（気を配ることを）そんなには意識していないよ。『ナイスプレー』というのは普通でしょ。レオンだから、ロボだから、外国籍選手だからって区別はない。ただ、ＦＷはおだてれば得点に繋がるとは思ってるけどね（笑）」

そう言って豪快に笑い飛ばした大和田。「最近は（環境にも）慣れて来たし、いいプレーをしている」とは言え、トリポジはややボールを持ち過ぎる嫌いがある。特長であり個性だとしても、ＤＦとしてはシンプルにプレーしてほしいと思うこともあるのではないか。

「俺は我武者羅なプレーが好きだけどね。なんとかしようという気持ちが伝わる。チームのために守ってくれると助かるし、少しでもボールをキープしてくれれば助かる。レオンが周りを信頼すれば変わるでしょ。ただ、時間はかかると思うよ。俺達、新加入選手でもチームに慣れるのは大変なんだから。レオンもまだ自分の頭の中で整理がついてないと思うし。でも、チームのために一生懸命やってくれている」

大和田はプロキャリアが長いだけに、性格がおとなしく個性を発揮しきれずに潰れていった外国籍選手を数多く目にしてきた。逆にトレーニングでは精彩を欠いても、試合では別人のように勝負強さを発揮する選手も。幸いトリポジは性格が明るく、気持ちも強い。日本語を勉強するなど環境に適用しようともしている。真摯な姿勢を感じるからこそ、大和田は「意識的にサポートしていない」と言いつつも、チームにフィットできるように手助けしようとしているのだろう。

「孤立していると周りにもわかるからね。そこは気を遣ってるかな。ひとり戦力が増えれば、チームの力になる。中断期間は距離を縮めるのには良かったかもしれない。まあ、フィットしてくれないと困るしね（笑）。『選手層が厚いから栃木は強くて当たり前』と言わせたい」

加入当初から貫かれている大和田の献身的な姿勢。若手にも壁を作らずにいじられ役を買って出ながら、トレーニングでは同級生のキャプテン落合正幸や副キャプテン大久保裕樹と声を張り上げ、程よい緊張感を作り出してもいる。

新体制が固まってから昇格の味を知るベテラン不在が及ぼす影響は、小さくないと思っていた。しかし、大和田の存在感は予想を裏切るほどの頼もしさを感じさせる。酸いも甘いも噛み分けるベテランの存在は、“若い栃木”にとってはとてつもない武器だ。トリポジが覚醒した時、その陰に大和田の小さな心配りがあったことを是非覚えておいてほしい。

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2011.04.16 Reported by 大塚秀毅