なにかしたい。しかし、なにもできない。被災地からのニュースを見つめながら、歯がゆい思いを募らせている人は少なくない。胸に何かがこびりついているような感覚がつきまとう。
富山に住む者にとっては先月22日のニュージーランド地震からずっとだ。県民は110万人足らず。親類や友人、知人をたどれば多くの人が異国で遭難した若者と教師にいきあたる。悲しい気持ちに追い打ちをかけて東日本大震災が発生した。

カターレ富山は震災でホーム開幕戦が中止になった３月12日にもグラウンドに集まって練習した。安間貴義監督によると、選手たちは動揺をかくせない様子だった。オフを挟んで14日にミーティングを開き、監督は自身の考えと思いを伝えた。話を聞きながら涙した者もあったという。チームは以降、普段通りのスケジュールでトレーニングを続けている。
16日の練習後、監督とキャプテンの足助翔選手が取材に答えた。コメントを以下に記した。

安間監督は６日の横浜FC戦後、「富山にはメンタル的に厳しい状況になっている方々がたくさんいる。（試合に勝つことで）少しでもほおが緩むようにしたかった」と言った。大雪による苦労だけではなく、ニュージーランド地震のことも踏まえた発言だったという。「本当の悲しみを消すことはできない。しかし、寄り添って何らかの救いになることはできるのではないか」。そんな考えから言葉を選んだという。今回も自分の言葉で答えた。足助選手も同様に語ってくれた。
「プロとして、我々の仕事をすることで被災した人を支える」。離れていても心はともにあろうとし、できることを行う。富山で心を痛める人たちを代表しての決意と受け止めた。

●安間貴義監督
「震災発生の翌日は、『被災した人たちのために今すぐ何かできないか』『サッカーをやっている場合なのか』という気持ちの選手が多く、動揺が感じられた。『歩いてでも現地に行くべきなのではないか』と言う者もいたぐらいだ。オフを挟んでミーティングを開き、わたしの考えをみんなに伝えた。
被災地を思って悲しい気持ちになり、『何かしたい』と思えることは人間として尊い。しかし、実際に現地に入って何かできるのかと問われれば、何もすることができないだろう。被災した人を助けるために自分たちにできることは何か。それはサッカーをすることで大勢の人に集まってもらい、義援金などへの協力を呼び掛け、これから復興のために現地に向かう人たちに仕事を託すことだ。『ありがとう』と直接的に言ってもらえる場面はなくても、被災した人を救済するという目的のためにわたしたちが果たすべき役目だと思う。たくさんの人に集まってもらえるように、いいサッカーをしなければいけないし、そのためにしっかり練習しなければいけないと思う。
避難所からのニュースで、『サッカーをやりたい』と話す少年を目にした。リーグが再開された時が、自分たちの出番だ。その時には、たとえサッカーをすることに疑問の声が上がり非難を受けたとしても、我々はプロとしての仕事をまっとうして自分たちのやり方で被災地を支援していく。全国各地でさまざまな仕事についている人が、被災した人たちを思いやりながらも、離れた自らの現場で誰かのために頑張っている。我々も逃げるわけにはいかない。いつその時が来てもよいように準備をしていく。悲しみを癒やすことはできないが、寄り添うことはできる。全国の各クラブのサポーターのみなさんには、いつもチームを後押ししてくれているように被災した方たちを支えていただきたい」

●足助翔キャプテン
「被災したみなさんのことを思い、つらい毎日が続いています。小学生の時、西宮市で阪神淡路大震災に遭い、同じ学校の生徒も犠牲になりました。今も強く印象に残っているのは、自分たち家族を気遣って遠くから食べ物を届けに来てくれた人がいたこと。今度は自分が１００ｋｍ、２００ｋｍと歩いてでも物資を届けたい、という思いがあります。しかし、救助活動が続いている現在の被災地においては無力です。今後、復興のために支援が必要になる時がくるはずです。わたしたちはサッカーをすることで多くの観客の方々に集まってもらい、援助金を募るなどして被災したみなさんを支えたいと思います。来るべき時のために、今は気持ちを奮い立たせて練習グラウンドに向かっています」

以上

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2011.03.17 Reported by 赤壁逸朗