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【J2:第34節 栃木 vs 甲府】甲府側レポート:勝って決めた甲府。ネバーランドを探す旅は終わり、新たな価値観を求める甲府の旅が始まる(10.11.15)

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11月14日(日) 2010 J2リーグ戦 第34節
栃木 0 - 2 甲府 (17:03/栃木グ/5,625人)
得点者:79' パウリーニョ(甲府)、84' マラニョン(甲府)
スカパー!再放送 Ch185 11/15(月)後10:00〜
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「『去年いい経験が出来た』と言えるようになったことが嬉しい」
キャプテン・山本英臣のこの言葉が重く聞こえた。シーズン中の何気ない会話の中で山本の目に傷ついた色を見たことがあるが、心の中にあるプライドや責任感をかき集めてキャプテンという役割を全うしようとしていたのではないかと感じた。タイムアップの笛を聞いて倒れこんだ山本は泣き崩れているように見えた。そして、ピッチ内では言い合うことが少なくないセンターバックのパートナー・ダニエルは山本に馬乗りになって「オブリガード」を連呼した。赤と青の紙テープが舞い散るピッチで山本の耳に聞こえた「オブリガード」はチーメイト全員からの「オブリガード」でもあったはずだ。

試合前のアップから多くの報道陣に囲まれ、何台ものカメラに晒されている選手を見て、これで過緊張のスイッチが入ってしまうのではないかと心配したが、「青赤〜La甲府〜J1へ行こう〜」というサポーターの歌が選手のストレスを闘争力に変えた。曲の名前を『アドレナリン』にしてもいいくらい、効いた。そして、今の甲府の強みとして出場停止の選手がいても、それをマイナスに感じさせないチーム力がある。普通は、出場停止までイエローカードがあと1枚の選手で1チーム作れそうな状況だと不安で仕方がないが、第32節の千葉戦辺りからは代わりに出た選手がやるだろうという信頼と自信があった。

始まってみれば予想通り栃木の球際の厳しさ、カウンターの速さと正確性に難しさを感じた。シュートの精度不足に助けられた場面はあったが、甲府は状況判断のミスが少なく、栃木の決定機の芽をほとんど摘み取っていた。目立たないが山本のリスクマネージメントの判断は素晴らしかったし、ダニエルもスピードと強さを活かして完璧に戦った。中盤では保坂一成が縁の下の勤勉労働者として藤田健と養父雄仁の攻撃力を支えていた。消耗戦となった前半を0−0で折り返し、「青赤〜La甲府〜J1へ行こう〜」の歌に送り出してもらった後半は栃木のラインコントロールに苦労したが執拗にディフェンスラインの裏を狙い続け、中盤が間延びし始めると甲府タイムを引き寄せた。相手ゴールに背中を向けているときにボールを受けるとトラップしてターンをする作業で時間を浪費するのだが、そんなときに使える技がある。「フリック」。正確性は低いキックの一種だが、身体の向きを変えることなく入ってくるボールにワンタッチで軽く触ってコースを少し変えるので、走りこんでいる選手がいれば電撃的に防衛線(ディフェンスライン)を突破することが出来る。藤田のフリックはヒールパスだったが、走りこんでいたパウリーニョに合った。そして、待ち焦がれたゴール。夏までは自信を失っていたが自信がつくとここ9試合で9ゴールと、9月以降はダーティ・ハリーみたいに撃ちまくって決めている。素晴らしい。

79分にパウリーニョのゴールで勝利を引き寄せた甲府。直後、内田一夫監督は栃木のボディにパンチを浴びせ続けていた大西容平に代えてマラニョンを投入する。6-0で勝った前節の北九州戦では5-0という気が楽な状態でピッチに出たにもかかわらず流れに乗れなかったマラニョン。それでも、彼を1-0で投入するのは内田監督の信頼があっての判断。通訳のジュリオは、「柏(好文)が(コンディションの問題で)先発出来ないと聞いてマラニョンは自分が先発出来ると期待していたけれど外れて凹んでいた。パウリーニョとダニエルと僕でマラニョンの気持ちをサポートした。僕は、マラニョンは絶対にやれると思っていたから、使って欲しかった。送り出すときには『お前を信じている。絶対にゴールを決められる』と言って送り出した」と信頼していた。そして、84分。マラニョンは栃木ディフェンダーのバックパスのミスを見逃さずに第28節以来のゴールを決めた。ナイーブな面があるストライカーだが、大事な試合で決定的なゴールを決めてくれた。外国籍選手に共通することだが、結果を出して当たり前という期待を受けてプレーするだけに、結果が出ないときは急速に周りの信頼は低下しやすい。そのなかでジュリオやブラジル人仲間がお互いを支えあってきた。その結果としてのブラジリアン2ゴール。試合後、マラニョンに「おめでとう」と声を掛けると、日本語で「ツギモ ガンバリマス」と穏やかに返してきた。来年もいて欲しいと思う感情のスイッチを押す一言だった。

J1時代の思い出だけが時間とともに美しくなっていきそうな時期もあったが、降格して3年で再びJ1再挑戦の権利を掴んだ甲府。最初の昇格を決めたときは6億強の予算規模だったが、降格後も約10億円の予算規模を保って毎年昇格争いを出来るようになり、クラブとしての成長を2回目の昇格(Jリーグ理事会での承認が必要)という結果で証明した。勝つにはそれだけの理由があるのだが、「細かいパスを回す昔の甲府」と「試合の流れに合った判断をする今の甲府」が上手く噛み合っていると思う。ワイルドプリンス・藤田は「難しい試合は、前半は耐えて、後半に自分たちのリズムになったときに点を取れる」と、試合の流れを掴むことが出来るようになったと感じている。

降格後は、嘆き祈りながら甲府を愛してきたが、甲府を応援するということは満たされるということに変わった。ネバーランドを探す旅の途中では動機付けされた思考に陥りやすかったが、これからは鹿島のように成熟したサッカーが出来るチームになることを目指さなければならないだろう。クラブ規模の違いを考えれば物凄く難しいことだが、新たな価値観を見つけて進まないとまたネバーランドを探すことになってしまう。10年以上続いている夏までに痩せるという目標は果たせなかったが、J1再昇格(理事会の承認が必要)という目標は3年で果たした。素晴らしい甲府。VIVA KOFU。さあ、みんなでJ1に行こう。

以上

2010.11.15 Reported by 松尾潤
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