10月11日(月) 第90回天皇杯3回戦
浦和 2 - 0 徳島 (13:00/駒場/13,240人)
得点者:31' エジミウソン(浦和)、43' オウンゴール(浦和)
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中盤での激しいプレスの掛け合いからボールを奪ったドゥグラスが突破を図ろうとしたところ、濱田水輝が必死に足を伸ばして食い止め、そして浦和がすぐさま攻撃を仕掛けた。めまぐるしく攻守が入れ替わり、一瞬の気の緩みも許されない緊張感あふれる展開。64分のその攻防こそが、この一戦を象徴するシーンであった。
そうした展開を生み出したのも徳島が勇敢な戦いを選択したからであった。カテゴリーの異なる対戦でよく見られるのは、守備を固める下のカテゴリーのチームに対し、圧倒的な支配率で上のカテゴリーのチームが攻め立てる展開。しかし、この試合は違った。浦和がボールを支配しようとしたが、徳島は積極的なプレスをかけ、浦和のパスワークを遮断。そして、ボールを奪ってから丁寧なつなぎを見せ、左右にボールを散らしながら浦和ゴールへ向かった。「今日は後手に回ることが多かった。自分たちのペースでサッカーができない時間が長かった」と浦和・濱田が認めるように、むしろ徳島が押し込む展開となったのだ。5分、10分、12分と立て続けにチャンスを作り、そして16分には右サイドからの折り返しをペナルティエリア内で平繁龍一がフリーでシュートを放つ絶好のチャンスを迎える。しかし、痛恨のシュートミス。ボールはゴール上へと飛んでいってしまった。「前半のチャンスを決めていれば、違う流れになったと思う」と倉貫一毅は唇を噛んだが、結果的にこの決定機逸が響くこととなった。
浦和はなかなか流れをつかめなかった。以前の浦和であれば、こうした苦しい展開を強いられるとバランスを崩していたことだろう。しかし、今の浦和は違う。「今日のような選手の組み合わせでピッチに立ったことはほとんどなく、不慣れな状態で選手たちは試合に入らなければならなかった」とフォルカー・フィンケ監督が言うように、けが人や代表選出のため、大幅にメンバーを入れ替えて臨んだ中、連係面で苦しみながらも1人1人が戦う姿勢を前面に出し、「チーム一丸となって戦えた」(フィンケ監督)ことでバランスを保ち続けることができていた。そこにチームの成長が見て取れた。
そして31分、右サイドでのスピーディーなパスワークで徳島のプレスをかわし、一瞬できたエアスポットに入り込んだ田中達也が鋭いドリブル突破を見せる。なんとか防ごうとした徳島DFが伸ばした足が田中の足に引っかかり、PKを獲得。それをエジミウソンが冷静に右隅に流し込み、貴重な先制点を挙げる。さらに43分には、中央の田中と柏木陽介のパス交換から右サイドに展開。スピーディーな流れで徳島DFを揺さぶり、そして原口元気が上げたクロスボールが徳島DFに当たってオウンゴールを呼び込んだ。
後半も一進一退の攻防が続いた。中盤で激しいプレスを掛け合い、主導権の奪い合い。終盤には2点のビハインドを負う徳島が変則3トップにして、果敢に攻め込む姿勢を見せるが、浦和は山田暢久と坪井慶介のベテランセンターバックを中心に集中力の高い守備でしのぎきり、無失点で勝利をおさめた。
浦和にとって「改善すべきところがたくさんあった」(フィンケ監督)内容であった。しかし、けが人が多い「厳しい台所事情」(フィンケ監督)の中で勝利を挙げたことは何よりの収穫と言えるだろう。また、濱田や高橋峻希といった若手選手たちを先発で起用でき、さらにけがから復帰した鈴木啓太を“試運転”させることができたこともチームにとって好材料であることは言うまでもない。4回戦が行われる11月17日までに多くのけが人が戻ってくることだろう。そのときに、この苦しい経験が生きることは間違いない。選手層が厚くなることで、競争がより一層熾烈となり、チーム力はさらに向上するはず。そんな希望を抱かせてくれる勝利であった。日本一、そしてアジアへ、確かな一歩を踏み出した。
惜しくも敗れた徳島。だが、「結果は残念だが、下を向く必要はない。やりたいことはやれたと思う」という美濃部直彦監督の言葉通り、十分力を発揮したと言えるだろう。ただ、浦和相手に互角の展開に持ち込む力がありながらも、J2で10位に甘んじていることに疑問を抱かざるを得ない。今こそ現実を真剣に見つめなおす必要があるのではないだろうか。個々のスキル、チームとしてのポテンシャル。この試合を見る限り、昇格争いをしていてもおかしくないものがあった。ただ、その力を毎試合継続して出せないところに徳島の大きな課題があるように思われる。その原因についてチームリーダーの倉貫は「チームは生き物とよく言われるように、メンタルに関わるところが大きい」と、チームの精神的な面を指摘した。毎試合、この試合と同じモチベーションで戦い続けることができれば、目標の「5位以内」が見えてくるはず。逆に、モチベーションを保てないようでは、いつもまでも浮上の兆しは見えてこないだろう。倉貫はこう付け加えた。「この状況を自分たちで変えていかないといけない」。この経験を生かすも殺すも自分たち次第。残り9試合は、徳島の将来を左右する戦いとなることだろう。もっともっと徳島はたくましくなる必要がある。
以上
2010.10.12 Reported by 佐藤拓也
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