10月10日（日） 2010 ヤマザキナビスコカップ
清水 1 - 1 広島　（15:00／アウスタ／12,384人）
得点者：64' 山岸智（広島）、87' 小野伸二（清水）
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本当にボール1個分の差だった。それが入るか入らないかの違いで、残酷なまでに大きな差が出てしまう。全身から無念さが滲み出ていた長谷川健太監督も、その言葉を使うのに抵抗感を示しながらも「一言で言ってしまえば、これがサッカー」だと表現するしかなかった。

清水は、試合への入り方でも、気持ちの面でも、戦術の面でも、ホームらしく広島を凌駕した。布陣はいつも通りの4-3-3で、代表で出場できない本田拓也の位置（アンカー）には山本真希、岡崎慎司の位置（左FW）には若い大前元紀。また、ケガから復帰はしたがベンチスタートとなった藤本淳吾の位置（右FW）には枝村匠馬という形でスタート。多少はメンバーが代わったものの、キックオフ直後から前から厳しくプレッシャーをかけて押しこまれる前にボールを奪い、そこからしっかりとパスをつないで攻めのリズムを作っていく。
「守備が非常にバランス良くやれていて、相手のFWに入るボールもしっかりケアして、つぶしてやれていた分、攻撃も1回で終わらずに2次攻撃、3次攻撃とつながっていた」という兵働昭弘の言葉通り、前半は清水がゲームを支配し続けた。第1戦で見えた守備の課題もきっちりと改善され、前半のシュート数は、清水が9本、広島が3本。広島に決定機と言える場面は一度も作らせなかった。
　
逆に清水のチャンスは何度もあった。4分にGK中林洋次のミスパスを小野伸二が奪って、兵働が左足でシュートを放ったのが最初の決定機。広島にがっちりと守りを固められ、なかなかシュートまで行けない時間帯もあったが、そこでも焦って無理な縦パスを入れてカウンターを食らうこともなく、冷静に辛抱強く攻め続けながらチャンスをうかがっていた。
もっとも惜しかったのは、32分のシーン。中盤でうまくボールを奪ってからのカウンターで小野がバイタルエリアでフリーになり、右足でミドルシュートを放つと、これは右ポストを直撃。さらに跳ね返ったボールが大前の目の前に来て、ヘディングで押しこもうとするが、これもゴール左角付近に当たって跳ね返る。本当に決定的なチャンスを逃してしまった。
さらに35分にも兵働のパスに右から走り込んだ小野がスライディングシュートを見せるが、ここはGKに止められてしまう。その直後、右ふくらはぎを痛めたボスナーに代わって太田宏介が左サイドバックに入り、児玉新がセンターバックに移動するという変更があったが、流れは変わらない。その太田が43分に入れた左クロスからヨンセンが放ったヘディングシュートもクロスバーに当たり、前半は直径12cmのパイプに先制点のチャンスを3度阻まれた。

後半に入ると、長谷川監督は満を持して藤本を大前に代えて投入。広島もメンバーと配置を変えて前半よりもパスをつなぐ意識を高め、ゴールに迫られるシーンは少し増えたが、清水もひるまず攻め続ける。決定的とまでは言えないが、左からのクロスが冴えてあと一歩の場面は何度か作っていた。
しかし19分、山岸智にワンチャンスから素晴らしいシュートを決められ、絶対に避けたかった状況に陥ってしまう。それ以外の場面ではほとんど破綻のない守りができていただけに、守備の対応が一瞬遅れたことが悔やまれるが、広島が本当に限られたチャンスで、ここしかないという所にシュートを決めたことは、清水とは対照的だった。
いずれにしても、これで最低でも2点を取らなければならなくなった清水。その直後から猛攻をかけて続けざまにチャンスを作るが、ここでも決めきれない。さらに、25分前後からは広島が落ち着いてポゼッションするようになり、逆に清水はボールの奪いどころを絞りきれず、うまく時間を使われる展開になっていった。

そんなイヤな流れの中で、男の意地を見せたのが小野伸二だった。コンディション的にはかなり厳しかったはずだが、終盤になっても攻守ともに精力的な動きを続け、42分にはヨンセンの落としを受けて2列目から最高の飛び出しを見せて、ついに自ら1点目をねじ込んだ。
この素晴らしいゴールによって清水が再び勢いづき、アディショナルタイムの4分間にもパワープレーで何度かゴールに迫ったが、49分を過ぎて平岡康裕のヘディングシュートが左に外れた直後にタイムアップの笛。トータルスコア2-3で、清水は今年もあと一歩のところで決勝進出を逃してしまった。

広島のペトロヴィッチ監督も「今日は我々がラッキーだった」と振り返ったゲーム内容。誰が悪かった、何がいけなかったとは言えず、見ている側にとっても非常に気持ちの整理をつけづらい敗戦だった。
しかし……本当に“これもサッカーだ”としか言いようがない。1年後（あるいは何年後かもしれない）の歓喜を何倍にもできるように、この悔しさを次へのエネルギーに変換していくしかないだろう。もちろん簡単なことではないが、それもサッカーを愛する者の宿命なのだから。

以上

2010.10.11 Reported by 前島芳雄