5月22日(土) 2010 J2リーグ戦 第14節
北九州 0 - 1 福岡 (14:04/本城/7,398人)
得点者:90'+1 オウンゴ−ル(福岡)
スカパー!再放送 Ch182 5/24(月)前05:30〜
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新たな歴史の第一歩を刻む戦いに決着がついたのはロスタイム。右サイドから鈴木惇がゴール前に送りこんだクロスボールは、クリアを試みた桑原裕義の頭に当たって大きく跳ね上がり、そのままふわりとした軌道を描いてギラヴァンツゴールへと吸い込まれた。局面で激しく競り合い、相手のシュートに対しては体を張って跳ね返し続けた両チームの攻防は、スコアレスドローが目前の時間帯で、誰もが予想もしない形で決着がついた。しかし、それは決して偶然の産物ではない。
チームの力とは、監督・チームスタッフ・ピッチに立つ選手たちの力を指すのではなく、フロント、クラブ職員、ピッチに立てない選手、サポーター、メディア、そしてチームに関わる全ての人たちの力の総和。それがダービーマッチであれば、その意味合いはさらに重みを増す。そういう観点から試合を振り返れば、この日、チーム力で相手を上回ったのはアビスパ。一見すれば、アビスパにとってはラッキー、ギラヴァンツにすればアンラッキーに見えるゴールも、アビスパに関わる全ての人たちの思いが引き寄せたゴールだったと言える。
「今日は選手たちにもただのゲームではないと伝えてきたし、サポーターの思いだったり、アビスパに関わる全ての人の思いを背負って戦わないといけないと言ってきた」(篠田善之監督)
「アビスパ福岡に関わる全ての人たちの気持ちが生んだゴールだったと思う。フロントの方、ピッチに立った選手、ピッチに立てなかった選手、サポーター、みんなの力で取った勝利だった。最後の惇のゴールも、間違いなくサポーターの力」(丹羽大輝)
「最後まであきらめなかったから生まれたゴール。出られない仲間のためにも何とかしたいと思っていた」(鈴木惇)
試合後、監督、選手たちの口から出る言葉からもわかるように、この日、選手たちは様々な思いを背負い、それを力に代えて戦っていた。ボール支配率では上回るものの、試合展開は高い位置で引っかけてカウンターを狙うギラヴァンツの思惑通り。後半は引いて守るギラヴァンツを崩せずに、やがてロングボールを蹴り合う単調なパターンへと陥り、攻撃面でアビスパのサッカーを表現できたとは言い難い試合だった。それでも、危ないシーンで体を張って最後までゴールを許さなかったのは、そうした思いが、あと一歩の集中力と、相手を上回る気迫を90分間に渡って緩ませなかったからだ。
そして、アウェイ側ゴール裏を中心に本城陸上競技場に集結したサポーターも、力の限りにピッチに立つ選手たちを支えた。試合開始3時間前、折尾駅から出るシャトルバスの始発に乗り込んだ観客の多くは福岡サポーター。開場を待つ列にもネイビーを身に付けたサポーターの姿が目立った。そして選手たちがピッチに登場すると、アウェイ側ゴール裏にネイビーとシルバーのストライプを描き出して選手たちを鼓舞し、難しい展開の中、決して声を途切らすことなく、最後の最後まで選手たちを後押しし続けた。「サポーターがホームゲームのような雰囲気を作ってくれた。最後まで踏ん張れたのもサポーターのみんなの声が届いていたから」と話すのは丹羽。この日の勝利は総力を結集させての勝利だった。
しかし、この結果は将来の勝点3を約束するものではない。互いの順位、チーム状況を数字の上で比べれば、アビスパが優位に立っていることは間違いのない事実。しかし、そうした数字上の優位性は、ダービーにとっては何の意味もなさないことをギラヴァンツは示した。アビスパが何処かで緩むようなことがあれば、勝点を落とす危険性が十分にあった試合だったとも言える。「もっと質も上げながら、もっと勝ちたい気持ちを前面に見せて次の対戦を迎えたい」(篠田監督)。目の前の結果を受け止めて、この試合から得た教訓を活かして前へ進んでいかなければいけないのは、勝利した試合も、敗れた試合も変わらない。その先にしか勝利はない。
そして最後に。この日、最後までどちらに転ぶかわからないダービーらしい試合が展開されたのは、アビスパも、ギラヴァンツも背負っているものの全てをぶつけ合ったからに他ならない。これからも互いに切磋琢磨しながら、ダービーと呼ぶにふさわしい試合を積み重ねながら、福岡ダービーの歴史を刻んで行ってほしいと思う。そして、いつの日かJ1の舞台で福岡ダービーを戦うことを、そして日本中が注目するダービーに育つことを願ってやまない。
以上
2010.05.23 Reported by 中倉一志
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