「福岡に馴染めるかな」。今だから言えることだが、中町公祐に失礼を承知で明かせば、それが彼に対する私の第１印象だった。初めて会った中町から都会の香りが漂っているように感じたからだ。福岡は熱く激しいプレーヤーを好む土地。熱さを表面に出さない都会的なスタイルが福岡のサポーターに受け入れられないのではないかと感じたからだ。その印象は全く見当違いのものだったのだが、中町が合流初日に怪我をしてしまったために、彼のプレーを直接見られなかったことも手伝って、勝手に中町のイメージが自分の中で出来上がってしまった。今思うと、ただただ恥ずかしく、申し訳ないばかりだ。

その印象が間違いだったと気が付くきっかけになったのが、新加入選手紹介のために中町を取材した時。プロから離れ、大学でプレーすることを選択した時の気持ちを尋ねた時だった。「もちろん大学に戻ることが決まった時は、２年後にプロに戻るためのプランはありました。けれど、実際に大学に戻ってみると、彼らは彼らでとても真剣に取り組んでいました。プロに戻るという気持ちに変わりはありませんでしたが、その姿を見て、プロ云々よりも、まずは自分が置かれた状況の中で精一杯にやることが大事だと感じたんです。ですから、水汲みから始めました」

その言葉だけだったら、中町に対する印象はそれほど変わらなかったかもしれない。しかし、宮崎キャンプで見た彼のプレーは私が勝手に作り上げた印象とは全く別物だった。まだコンディションが整わない中町がプレーするのは、半分近くを練習生やテスト生で占めるチーム。チームコンセプトが浸透しているわけはなく、連携が取れるわけもない。当然のことながら、中町自身も特長など出せるわけもない。しかし、中町は嫌な顔１つ見せず、苛立つ様子もなく、ただ黙々とボールを追っていた。

そして、徐々にコンディションを整えた中町が紅白戦で見せるプレーは前評判通りセンスが溢れるものだったが、それ以上に印象に残ったのが泥臭くボールに食らいつくプレー。そして惜しむことなくピッチの上を走り回る姿だった。「まだサポーターに知られてないですよね。今日も誰？っていう感じだったですよ」。必勝祈願を終えてそんなことを話していた中町だが、開幕戦で彼のプレーを見たサポーターが、彼の存在を強く心に焼き付けたことは間違いない。それは中町が74分にピッチを退く時に浴びせられた大きな拍手が物語っていた。

そんな中町の存在を決定的なものにしたのは、５戦勝ちなしとチームが苦しい時期を過ごしていた時だった。勝てないことでチームのアグレッシブさに陰りが見られ、チーム全体に無難なプレーが増える中、中町は中盤を走り回り、汗かきプレーを厭わず、戦う姿を見せ続けた。その姿はどんな時も変わらなかった。中町の心の中に流れる熱い気持ち。それは福岡の人たちが最も大事にするものだったからだ。
そして、熊本戦で見せた鬼気迫るプレーと２ゴール。「福岡に中町あり」を決定づけるにふさわしい試合を、中町以上に喜んだのはサポーターだっただろう。誰もが苦しい時期に見せ続けた中町のプレーが報われる日が来ることを望んでいたからだ。

「今までと違って遊ばないから、それがいいんじゃないですかね（笑）。それに、今までは練習が終わったら一番最初に帰っていたタイプだったんですけれど、最近は体のケアなんかするようになっちゃって（笑）。ボールに行けてるのは体のコンディションがいいからなのかなって。だから今のところ継続してやっていこうかなって思っているんですよ（笑）」
中町は、いつも冗談交じりに話し、熱く語ることは少ない。しかし、プロの世界は、一度離れざるを得なかった者が簡単に戻ってこれるほど甘くはない。まして、そこで実績を残すとなれば尚更のことだ。決して表には見せないが、ここまでの過程で悩み、苦しみ、そして人一倍の努力を積んできたことは想像に難くない。それは中町が見せる１つ、１つのプレーから十分に伝わってくる。そしてこれからも、自分のために、チームのために、サポーターのために、中町は熱いプレーを見せ続けてくれることだろう。

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2010.05.10 Reported by 中倉一志