「長かったですね。でも我慢する時だったから、それはそれで良かったと思います」
バトル・オブ・九州の初戦である鳥栖との九州ダービーを控えた21日、顔馴染みの報道陣に囲まれて話す神山竜一の目は遠くを見るようで、しかし晴れやかに、そしてサッカーが出来る喜びに、戦いのピッチに戻ってきた充実感にあふれていた。
神山のJリーグ公式戦デビューは2006年5月6日の対広島戦(@広島ビッグアーチ)。この年のリーグ戦出場は1試合にとどまったが、翌2007年にはリーグ戦全試合にフルタイム出場を果たして不動の守護神としての立場を確立した。1対1の抜群の強さと、恵まれた体格を活かしたダイナミックなプレーは神山ならでは。相手に与える威圧感はJ2リーグ1、2を争うもので将来はバラ色のように見えた。しかし、2008年10月の練習中に右膝外側半月板を損傷。ここから怪我との戦いが始まった。間接鏡手術も痛みが取れない毎日。翌2009年2月には再検査の末、右ひざ後十字靱帯(じんたい)再建手術を受けて東京都内のリハビリ施設で復活に向けての戦いの日々を送ることになる。チームへの合流は昨シーズン終盤。ボールの感触を確かめるように、コツコツと復活に向けてのトレーニングを続けてきた。「僕の中でGKは背番号1のイメージがあります。その番号を付けさせてもらっているのは光栄なこと。1番に恥じないように日頃からしっかりやりたいと思っています」。彼を支えていたのは、必ずピッチに戻るという強い意志と、1番を担う誇りだった。
そして4月25日、神山は2008年8月23日(対広島戦)以来、実に610日ぶりにJリーグ公式戦の舞台に立った。2008年シーズンと比較して体重を5キロ絞った体は、ひと回り小さくなったような印象も持つが、そのプレーぶりはアビスパサポーターなら誰もが知っている神山竜一そのものだった。ファーストプレーは4分、ゴールキックを大きく前へ蹴り出す。「最初は緊張しましたけれど、一度ボールを触って落ち着けたので、後は冷静に試合が出来たと思っています」。最後方から仲間に大きな声を送り、ゴール前では圧倒的な威圧感を醸し出す。23分にはCKから1失点を喫したが冷静さは失わない。その後も落ち着いたプレーが続く。
そして、神山らしさが凝縮されたのがロスタイムでの3度のプレー。萬代宏樹との1対1のシーンを右足1本出弾き返すと、その直後に浴びた藤田直之の左足から放たれた強烈なミドルシュートを後退しながらジャンプ一番、左手ひとつで防ぐ。さらに右サイドからゴールに迫る金民友に対し、素早く前へ飛び出してボールを抑え込んだ。「1分あれば点は入る。0−1で粘っていれば、いつか前が取ってくれると思っていました」。最終的に福岡にゴールは生まれなかったが、仲間を鼓舞するプレーだったことは間違いない。
試合には敗れた。しかし、この日神山が見せたプレーは完全復活を印象付けるのに十分なものだった。バトル・オブ・九州の初戦。しかも、長い歴史を積み重ねてきた鳥栖との九州ダービーという大舞台。そんなピッチの上で、約1年8か月振りの出場で平常心を保つことは容易ではない。しかし、神山はブランクがあることを微塵も感じさせなかったばかりか、これぞ守護神と呼べる活躍を見せた。多くを語る選手ではない。これからも辛かったリハビリ生活について声高に語ることはないだろう。そして、その必要もない。なぜなら、この日の彼のプレーに1年8か月に渡る様々な思いの全てが込められていたからだ。そして、それはスタジアムに足を運んだ全ての人に伝わったはずだ。
試合後、神山は話した。
「自分のパフォーマンスは悪くなかったと思います。でも1点取られているので、そこはしっかりと修正しなければいけません。次は、もっとクロスに対して思い切って飛び出せるようにやっていきたいと思います」
そして、戻って来ましたねと話しかける報道陣に向かって答えた。「0で抑えて勝った時に、初めてピッチに戻ってきたと思えるんだと思います」
神山にとって必要なのは完封勝利。まだ彼の復活劇は終わっていない。そして、完全復活を果たすべく29日の愛媛戦に臨む。その瞬間を迎えた時、きっと大声で雄叫びをあげるに違いない。いつもの神山竜一のように。
以上
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2010.04.28 Reported by 中倉一志
J’s GOALニュース
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威圧感漂うダイナミックなプレーが神山竜一の持ち味。鳥栖戦でのプレーは、完全復活を印象付けるには十分なものだった。
ふと見せる笑顔に、サッカーが出来る喜び、戦いの舞台に立てる喜びが溢れる。次なる目標は完封勝利。その時、神山竜一は完全復活を果たす。
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