それはストライカーの弁であった。
「ボールが来る前は胸でトラップしてから切り返してシュートを打とうと思ったんですよ。でも、GKが前に出てきたのが見えたので、ヘディングで流し込みました。咄嗟の判断でしたね」(ゴール動画はこちら)
第7節福岡戦後、はちきれんばかりの笑顔でこう振り返ったのは大和田真史。いわずと知れた屈強たるセンターバックだ。そんな彼がゴール前で鋭い嗅覚を発揮して決めたゴールが決勝点となり、チームに6試合ぶりの勝利を持ち込んだのであった。
ゴールのシーンについて「デルリスが乗り移ったのでは?」と冗談めかして問いかけると、大和田は笑顔を崩さず、「本当にそう! いつもならそこまで冷静に考えられないもん。本当にあの瞬間にひらめいたんだよね」と返してきた。背番号32は一瞬だけ背番号9に化けたのだ。
本間幸司もデルリスを感じた1人である。
福岡戦はシュートを21本打たれる苦しいゲームであった。しかし、絶体絶命のシーンが相次いだものの、そのたびに相手がピッチに足を取られてつまずいたり、シュートミスをするなど幸運に助けられることとなった。そうした場面に直面するたびに本間は「デルリスがいるんじゃないかなと思った」と言う。最たる例は後半、相手に突破を許し、最後は本間までかわされ、フリーで無人のゴールにシュートを打たれた場面。同点に追いつかれたと覚悟したその直後、シュートは枠を逸れていったのだ。スタンドの誰もが本間同様不思議な力を感じたことだろう。「ラッキー」の一言では片付けられない場面であった。
3月28日に亡くなったデルリスを追悼して、福岡戦前には黙とうが行われ、そして水戸の選手たちは喪章を付けて試合を行った。バックスタンドには「Gracias DERLIS」と書かれた横断幕が張られ、選手入場時には「DERLIS 9」とプリントされた紙が掲げられた。試合後に話をしたボランティアスタッフの方は「ずっと喪章を握りながら見てました」と語り、不肖私も在籍時に販売された「デルリスTシャツ」を身にまとってスタジアムに向かった。そうした1人1人の思いが、見えない力となって、チームを後押ししたに違いない。みんなの心の中にデルリスはいたのだ。
今から5年前、在籍期間5ヶ月、17試合しか出場していないデルリスだが、彼が残した8つのゴールは水戸の伝説。1度でも彼のプレーを見た人の胸の中には、5年の月日が経ってもピッチを躍動する彼の姿が色鮮やかに焼き付いていることだろう。それほどのインパクトを水戸サポーターの心に残したデルリス。これからも、いつまでも、水戸ホーリーホックというクラブが存在する限り、水戸を愛する人の心の中で生き続けていく。
以上
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2010.04.21 Reported by 佐藤拓也
J’s GOALニュース
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「Gracias DERLIS」と書かれた横断幕
試合前にデルリス選手を悼んで黙祷。サポーターも有志が用意したメッセージを掲げた。
水戸時代のデルリス選手。2005年J2第20節水戸vs湘南戦(@笠松)より。この日2得点を挙げ水戸の勝利(4−1)に大きく貢献した。
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