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【J2日記】甲府:「48-FORTY EIGHT-」PART4(09.12.08)

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愛媛に2-0で負け、松山の繁華街で反省会という理由で飲んで杉様とタクシーでホテルに戻った。杉様から「松尾さん、温泉は朝6時から入れますから、明日は5時50分にフロント(集合)でいいですか。6時になると太鼓が鳴って温泉が開くみたいですよ」と声を掛けて貰った。起きる自信がないまま「大丈夫です!」と原稿の締め切りの約束と同じ、勢いだけで自分で自分を信じていない返事をして別れた。杉様が勧めてくれた温泉とは、夏目漱石の小説「坊っちゃん」で有名になった(らしい)道後温泉本館。明治27年建築された公衆浴場で、物凄くインパクトのある大型の近代木造建築。僕のような「嵐(ジャニーズ)」世代の平成・ヤングには映画・「千と千尋の神隠し」で千尋(千)が働いた湯屋・「油屋」のモデルになった建物と言われればピンとくる。DVDも持っている。10回くらい見たけれどそれでもおもしろい映画。「坊っちゃん」も中学生の頃に読書感想文を書くために読まされたけれど、「赤シャツ」しか覚えていない。道後温泉本館はホテルのすぐ前にあって、飲みに行く前に暗い中で見て、「おもしろそ〜」というイメージを持っていたが、(おそらく)早朝2時ごろに約4時間後の約束をするのは寝るのが趣味のヤングには辛かった。

しかし、ボンクラ系ライターに優しくしてくれる「杉様を待たせてはならない」という思いだけで必死に起きた。目覚ましをセットしていた時間は5時45分。顔も洗わずにフロントに下りたら、杉様はまだで、小瀬の駐車場でビールをくれた美人・女性サポーターが杉様を待っていた。「顔くらい洗っておけばよかった」と少し後悔したが、すぐに杉様がエレベーターから降りてきたので、手で顔をこすって3人で外に出た。「朝6時から温泉に入る人は少ないだろう」と思っていたが、50メートルくらいの行列ができていた。その中には甲府サポーターの姿をチラホラ見つけることができた。彼らは2次会3次会と行ったはずだから、物凄い体力。名物を食い尽くし、名所に行き尽くす「甲州イナゴ軍団」は凄い。「朝から並ぶのは面倒だなぁ」と内心思ったが、この行列は入浴券を買うための行列で、ホテルのフロントで杉様が入浴券を買ってくれていたので僕たち3人はすんなり入ることができた。

建物に入ってみると男湯は何故か東西の別に2つあって、どっちでも入れるシステム。中は大正ロマン風のタイルを敷き詰めたお風呂で、甲府で入る温泉とはだいぶ趣が違う。お湯は透明で湯の花はなく、サラッとした感じだった。ただ、中も混んでいて洗い場が空くまで湯船に浸かって待っているつもりだったが、湯船の奥にしかポジションが取れなくて洗い場が空いてもすぐに先を越されて、結局はそのままのぼせるまで浸かって出てしまった。それでも、小一時間は温泉でウロウロしていた。外に出てから建物の写真を撮ってホテルに戻って荷物をまとめた。寝た気がしなかったからバスの中で寝てやろうと思っていたけれど、M宮氏が9時15分の集合時間に遅れたことでバスの中は「スシ(奢れ)、スシ(奢れ)、スシ(奢れ)」コールが湧き上がり、変な勢いが出た。甲府到着の目標時間は夜の9時〜10時。前日の試合に負けたことを忘れるための旅が始まった。

阿部バスの場合、試合に負けたことを忘れるために必要なことは「映画」と「食欲」。阿部おじさんはレンタルDVDの店が開けそうなほどDVDを用意してくれていて、最初に上映されたのが「犯人に告ぐ」。雫井脩輔の原作を映画化したもの。雫井作品を全て読んではないが、「栄光一途」と「白銀を踏み荒らせ」がおもしろかった。柔道やスキーが小説になるんだと嫉妬しながら勉強させてもらった。「犯人に告ぐ」は小説を読んでいたし、窓から見える四国の風景がおもしろかったから殆ど見なかったが、終わればすぐに次のDVDがセットされた。次は「ザ・マジックアワー」。三谷幸喜監督の作品で、これがおもしろかった。TSUTAYAで借りたり買ったりしようと思わないが、みんなで見るにはおもしろい。この頃には「瀬戸内しまなみ街道」を渡って本州の広島県内を走っていた。そして、「甲州イナゴ軍団」がサービスエリアの休憩で本領を発揮していた。「地元の名物を食べ尽くさなければならない」という遺伝子が山梨県民には組み込まれているのか、甲府サポーターになるとそうなるのか分からないが、車内で座っているだけなのに男性を中心にみんなよく食べる。もう呑んでいる人もいたし、サービスエリアごとにソフトクリームを食べている人もいたし、その両方の人もいた。まさに鋼鉄の胃の持ち主。この胃をガウボン(このときはまだ移籍してくる前)に移植すればもっと活躍できたかもしれない。そして、女性はお土産を買うことに走る。僕の前に座っていた親子(母と娘)は近所の人や職場の人へのお土産を買っていたが、兵庫県の淡路島(往路)、松山、広島、岡山とサービスエリアで休憩があるたびにその県の名産品を買っているから、どこに何をしに行ったのか分からないようなお土産の構成になっていた。

「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」鑑賞→サービスエリア襲撃→「笑の大学」→サービスエリア襲撃→「THE有頂天ホテル」鑑賞→サービスエリア襲撃、と映画鑑賞とサービスエリアの襲撃を繰り返しながらバスは甲府に近付いて行った。GWの渋滞があったので結局は夜の12時を過ぎて甲府に辿り着いたのだが、国際線の長距離路線に乗っているときよりも映画を見ることができた。以前、好調のピクサーが作った「レミーのおいしいレストラン」を1回のフライトで3回観たのが最高記録だったから、邦画で記録更新となった。阿部おじさんが三谷幸喜のファンなのかどうかは分からないが、「負けても、明るく帰ってくる」というモットーに沿った作品の選択だった。こういうことをボランティアでやってくれる人がいて、それに賛同してバスツアーに申し込む人がいる甲府は幸せだと思った。また、車内で選手に対する愚痴を辛辣ながらも明るく言い合っているのもおもしろかった。阿部おじさんは、「次に活躍すると、手のひらを返したように称えるから」なんて笑っている。勝ったときは褒めて称えて、負けたときは愚痴のネタにするのは健全だと思う。近場のツアーならDVDを何本も見たり、サービスエリアに何回も寄ったりすることはできないが、愛媛のように長距離だとDVD鑑賞とサービスエリアの襲撃を繰り返しているうちに、自分が何をしにどこに行ったのか本当に分からなくなるほど脳味噌に新しい情報と刺激が上書きされてしまう。来年は勝ったときの雰囲気を味わってみたい。

阿部バスの仲間は、殆ど全員が翌日は朝から仕事があるそうで、「甲州イナゴ軍団」はボロボロになってもすぐに回復して次の遠征費を稼ぐために働くのだ。凄い人たち。ヴァンフォーレ甲府というクラブの存在がサポーターに与え、及ぼしている情熱や影響はそれぞれ違うだろうが、もしヴァンフォーレ甲府が存在しなければ、阿部おじさんは熱心な阪神ファンを続けていただろう。他のサポーターの人生も、のめり込むほどに変わっていった部分や甲府に捧げた時間が多くなっている。小瀬で座席案内のボランティアをする風来坊氏、ホームゲームごとにバス小瀬新聞を作ってアウェイサポーターを臨時バスで迎えるバス小瀬の犬岩石氏など、甲府に多くの時間を捧げているサポーターは少なくない。だからアウェイは思う存分楽しめる試合になるだろう。そして、応援するという理由で旅行も楽しむことができる。コアなサポーターと一緒に過ごした48時間を濃縮し、敬意を込めて言いたい。

「あんた達は、『偉大な甲府バカ』だよ」

以上

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2009.12.08 Reported by 松尾潤
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