スカパー!生中継 Ch308 15:25〜(解説:川本治、実況:西岡明彦)
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■リーグ戦上位クラブ 直近4節の試合結果
第30節 | 第31節 | 第32節 | 第33節 | 第34節 | |
広島 | ●0-7 川崎F | ○1-0 大宮 | △0-0 名古屋 | ○1-0 磐田 | 京都 |
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紅葉の最終盤となり、広島の山々が深い赤と黄色に包まれている。シーズンの終わりを告げる晩秋の空気が、静かに、静かに広島ビッグアーチのピッチの上に漂う。
試合前日の朝、いつもと同じようにクラブ職員が総出で、会場の設営に汗を流す。「晴れてよかったです。雨でぬれると、このフラッグが重くて」と笑う女性スタッフ。「WE FIGHT TOGETHER」のスローガンが染め抜かれたフラッグを風で倒れないように結束帯を使って強く固定し、何本も何十本でも、一つ一つ想いを込めて設置していく。
そのフラッグで飾られたメインストリートを、明日はたくさんのサポーターが歩くことになるだろう。その一本一本に秘められたドラマが顧みられることは、おそらくあるまい。しかし、一本が三本に、そして数えきれないほどの本数となって並んだ時、ストリートはサンフレッチェ・カラーへと染められる。その色がサポーターの想いをかき立て、試合の雰囲気を盛り上げる。
一つ一つの力は小さくても、それが集まった時に大きな力を発揮する。それはまさに、広島のチーム名の由来となった「三矢の訓」であり、広島のサッカーのコンセプトである。
明日の試合に勝てば、広島は4位を確保し、J2復帰1年目のチームとしては最高の成績となり、さらに天皇杯の結果如何でAFCチャンピオンズリーグの出場権を確保する。その力の源泉こそ、前述したコンセプトだ。
「我々は、個人が力を持っているのではなく、チームとして優れている」
ペトロヴィッチ監督の口癖だ。ドリブルで打開してブロックを崩す選手はいない。相手DFを置き去りにして長い距離を独走するスピードを持った選手は、現在負傷離脱中のミキッチだけ。圧倒的な高さでGKの上からヘッドで叩き込むFWも、広島にはいない。
しかし、長い年月をかけて練り上げたコンビネーションは、他の追随を許さない。一つのボールに対して何人も絡み、連動してサポートを続ける。一人一人がチームのために走っているからこそ、前節のような20本のパスをつないだゴールが生まれる。主力の相次ぐ離脱を乗り越えられたのも、その想いを貫いて全員が闘いぬいたからだ。
明日もまた、広島は多くの主力を欠いた闘いとなる。ミキッチ、ストヤノフ、青山敏弘、森脇良太。だが、そこを広島は全員でカバーする。ミキッチと森脇を欠いた右サイドと最終ラインは李漢宰と盛田剛平がうめる。青山不在は柏木陽介がカバーし、前線には復帰早々の森崎浩司や李忠成、高萩洋次郎が名乗りをあげる。すでに退団が報道されている久保竜彦をはじめ、今季を最後に広島から離れる選手たちもいるだろう。そういう選手たちの想いも込め、ベンチに入れない選手たちも全員、集中して準備を積み重ねてきた。 「このままシーズンが終わってしまうのが、もったいない」と中島浩司が言うほど、チーム状態は悪くない。
京都とのビッグアーチ決戦といえば、2年前の12月8日、J1・J2入れ替え戦を思い出す。0-0で迎えたロスタイム、槙野智章が放ったオーバーヘッドはポストに当たり、イレギュラーして外に出た。こぼれを狙っていた佐藤寿人の前には、転がってこなかった。
「借りはまだ、返していない」。エースは静かに言葉を紡ぐ。槙野も「同じ相手に同じピッチでゴールを決めて勝って、気持ちの整理をつけたい」。今年の西京極では0-2と京都の思惑にはまった形で敗れ、選手はブーイングを浴びている。そのことも含め、京都にはしっかりと借りを返したい。「まずこの試合に勝つ。その結果として、順位やACLがついてくる」という中島の言葉が、チームの総意だ。
ただ、2年前と同じメンバーが並ぶ広島と違い、入れ替え戦に出場した京都の選手で明日の先発が予想されるのは中山博貴のみ。あの時と今と、京都はまったく別のチームとなっている。しっかりと自陣でブロックをつくってくるやり方はあの時と同じでも、「彼らの個々の能力は高い。ディエゴや柳沢敦、林丈統、佐藤勇人といった選手にスペースを与えると、仕事をされてしまう」(ペトロヴィッチ監督)。
前節浦和に勝利(1-0)し、京都は3季連続のJ1での闘いを決定した。広島に勝利すれば勝点は44に届き、順位も11位。そうなれば、いずれも前年の結果を上回ることができる。シジクレイや林の退団、そして長年このチームを支えた手島和希の引退が決定していることも、闘志へのガソリンとなるはずだ。
2年前、西京極で苦杯を喫した12月5日という日付を、広島の選手たちもサポーターも、忘れてはいない。その3日後、広島ビッグアーチでどんなことが起こったのかも、忘れてはいない。そういう因縁や恩讐を乗り越え、新しい闘いのステージに踏み出すためにも、京都に勝って4位になりたい。そのためにクラブとチーム、サポーターが「走力結蹴(今季のクラブスローガン)」して、勝利を目指す。その熱闘が始まるキックオフ時間の15時30分を、晩秋の広島ビッグアーチは静かに待っている。
以上
2009.12.04 Reported by 中野和也