11月21日（土） 2009 J2リーグ戦 第49節
甲府 2 - 3 湘南　（17:03／小瀬／16,844人）
得点者：6' 中村祐也（湘南）、10' 臼井幸平（湘南）、25' 金信泳（甲府）、62' マラニョン（甲府）、89' 坂本紘司（湘南）
スカパー！再放送 Ch182 11/22（日）23:30〜（解説：外池大亮/菅野将晃、実況：吉岡秀樹、リポーター：難波紀伝/児玉美保）
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「ここでやらなきゃ、いつやるんだ」と、いつもよりすこし長めの円陣をほどいた湘南は、キックオフ直後の3分間こそ落ち着かなかったものの、上々の立ち上がりを見せた。セットプレーから甲府の金信泳が詰めた1分のシーンを引き合いに、この日キャプテンマークを巻いた野澤洋輔が言う。「あれを防げたことで、アウェイでも勝つんだという勢いが増した」。果たして4分にはカウンターに転じ、田原豊を経由したアジエルのシュートはポストを叩き、当然のように連動して攻め上がっていた寺川能人も続けざまにミドルを撃った。先制ゴールはそのわずか2分後である。

田村雄三が自陣で積極的に奪うと、すかさず田原へ通し、さらに田原が左サイドを駆け上がる中村祐也にさばく。敵陣に攻めこんでいた甲府のゴール前は手薄だ。「コースが空きやすいところに意識してボールを置きました」と語る中村が、つねと変わらぬ冷静さで左足を振り抜いた。さらに湘南は10分、セットプレーを機に左サイドを崩し、中村のクロスをアジエルがファーサイドで受け、最後は臼井幸平が詰めた。「先制したあと、もう1点を取りにいく姿勢が大事」と戦前、中村が触れたとおりの追加点だった。

2点のビハインドを負った甲府は、相手の守備網のあいだに顔を出しながらサイドを崩しにかかる。一方の湘南は中を締め、決定機を許さない。こと村松大輔は中でマラニョンにいっさい仕事をさせず、サイドへ追いやりクロスを入れられてもジャーンが空を制した。野澤も好守を重ねる。逆にいえば、25分の金の追撃弾は、いわゆるバイタルエリアでボールを受け、相手の守備網を力強く破ったゴールだった。そして甲府は1点を返すや、後半ロスタイムかと思わせるような攻撃でクロスを連発し、あるいはセットプレーから押し込んだ。互いに球際厳しく、攻守の切り替えも速い。歓声や溜息、怒号が飛び交うなか、湘南のチャントだけが途切れることなく小瀬に響く。ゴールに向かい続ける湘南の姿勢そのもののように。

後半に入り、甲府は金とマラニョンを目指す縦のロングボールが増えた。対して湘南も死守していたが、PKを与えてしまい、後半17分、甲府が同点に追いつく。このとき、PKをまえに、野澤は仲間一人ひとりに言ったそうだ。「点を決められるかもしれないけど、それでもまだ追いつかれるだけだから」と。もしかしたら、彼のなかにはもうひとつの拠り所があったかもしれない。野澤がキャプテンを務めた試合は今季一度も負けを知らないという、本人も茶目っ気たっぷりに笑う「不敗神話」である。勝利した第1クールの仙台戦や第2クールのC大阪戦も然り。そしてチームメイトもまた声を掛け合い、同点にされても落ちることなく、圧されに圧されてもなおゴールを目指した。その姿は戦前、反町康治監督が平常心の大切さとともに挙げた「執念」と言い換えられるかもしれない。その執念がロスタイム、実を結ぶ。

手元の計時で後半48分、フリーキックからアジエルが甲府ゴール前へ送り、ジャーンのヘッドは惜しくもクロスバーを叩く。気まぐれなボールが選んだのは、湘南の最古参プレイヤーだった。「たまたま僕のところにボールが来ただけで、みんなが最後まで諦めずに闘った結果だと思います」そう語る坂本紘司が1トラップして左足を一閃、シュートはゴール右隅に貫かれた。

ふたたび、反町監督が言う。「どちらに転んでもおかしくない展開のなかで、ペナルティエリアに入る人数はどちらが多かったか。それは我々だと思う」。冒頭の寺川も先制ゴールの中村も、追加点の臼井も、またPKを与えてしまい取り返そうとした島村毅も、皆すべては果敢に攻める姿勢が彼らをゴール前へと導いていた。そして、つねにその旗頭としてシーズンを走ってきた坂本の胸元にボールは届いた。今季だけではない、J2の湘南とともに10年間歩んできた坂本の昇格への執念が、小瀬に集う1000人の歌とパブリックビューイングに集った1600人の思いを乗せて、ゴールに結実したのだった。

上に上がれるのはどちらかでしかないことは決まっている。その土壇場で、湘南は勝った。どちらに転んでもおかしくない死闘を制した。もちろん、まだ何も手にしてはいない。勝負は最後までわからない。ただ、この小瀬の死闘を制した以上、湘南はもう勝ち続けなければいけない。上に上がらなければいけない。そう思わせるだけの、両者の死闘だった。悲願のJ1にもうすぐ、手が届く。

以上


2009.11.22 Reported by 隈元大吾