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【J2日記】甲府:甲府の闘将・寿莉王(ジュリオ)・PART2(09.05.13)

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(C)松尾潤

練習後、ブルーノ、マラニョンと話しながらジョギングするジュリオ。こういうコミュニケーションを欠かさず選手の心をケアする。

甲府の闘将・寿莉王(ジュリオ)・PART1

 J’s GOALの仕事で甲府の試合に行くようになったのは04年のJ2リーグ後半戦。その頃、甲府の選手で顔と名前が一致するのは小倉隆史(現・サッカー解説者)だけだった。今思えば、甲府のことは恥かしいほど知らなかった。そんな頃、ホームゲームの日に小瀬陸上競技場の外をぶらぶらと歩いていると、地元テレビ局が取材をしているところに行きあった。女性レポーターが小さな女子に「甲府の選手では誰が好き?」とマイクを向けていた。その女の子は「じゅりお」って答えた。それを聞いて僕は選手名鑑のページを開いて「ジュリオ」という選手の名前を探した。しかし、「ジュリオ」なんて名前の選手はいない。アライール、カレカらブラジル人の誰かのニックネームが「ジュリオ」なのかとも思った。素直に誰かに聞けばよかったのに、「甲府にジュリオって選手はいますか?」と聞くことが出来なかった。その日はシーズン途中に加入して、まだ登録されていない選手だろうと勝手に思い込んだ。しかし、試合後のミックスゾーンで誰かが「ジュリオ」と声を掛けた。その先にいたのは、嫉妬したくなるほど甘くて綺麗な顔をした白人の青年だった。そして、ようやく彼がベンチに座っていた通訳だということが分かった。しかし、最近はジュリオに嫉妬なんかしていない。
「昔は子供に人気があったんですけど、最近太ってきたんで人気低下中です(笑)」と本人が言うように、親しみのある体型になってきた。肩を抱きたいほど共感が持てるようになっている。

 大抵のチームでベンチに座るスタッフの順番は、監督、ヘッドコーチ、通訳という並びになっている。ジュリオは大木武(現・日本代表コーチ)、松永英樹(現・岐阜監督)、安間貴義と3人の監督のそばに座ってきた。監督とコーチの話は意識して聞いているし、監督がつぶやく言葉も聞いている。 その言葉を選手へのフォローで使うこともあるし、自分自身のサッカー観にも役立てている。
「どうなるか分からないけど、将来はコーチになりたい。自分の勉強になるから監督やコーチの話を拾っている」
 この気持ちがあるから、喚声の中、監督やコーチの言葉に耳をそばだてる。出身中学・田富中のサッカー部の練習に顔を出して指導することもある。通訳の枠に収まりきらないようになってきたのかもしれない。今年は自分なりに感じたことを全体練習後のジュリオ塾で発揮するようにもなった。ここまでで最大の成果は、第8節・アウェイの横浜FC戦(3−1)でマラニョンのゴールに表れた。「今年の甲府はクロスが多いから横から来るボールに対して、首を振ってヘディングする練習もした方がいいとマラニョンに提案したら、『やろう』と言うことになって、前日に練習したんです」。そして、翌日にマラニョンが練習通りのヘディングシュートを決めた。海外にコーチ留学して、コーチ兼通訳としてベンチに入る日本人コーチはいるが、ジュリオは通訳からコーチになろうとしているブラジル人。今年の12月にはブラジルに帰って、短期で最初のコーチング資格を取得する予定だ。

 いい意味で通訳の範疇を越えて仕事をしているジュリオ。出過ぎることを少しは心配するが、そこはわきまえている。日本人選手の相談相手にもなるが、そのジュリオ塾の対象はブラジル人選手。マラニョンは「明日の試合はどんな戦いになりそうか」ということを聞いてくる。「正しいかどうかは分からないけど、J2を長く見ているのでどんな流れになりそうかというイメージは伝える」。全体練習では忠実に通訳に徹して、自主練習の時間や日常生活でブラジル人選手のケアを行う。いくら能力の高いブラジル人選手を獲得しても、選手が山梨やチームに馴染めなければ戦力にはならない。「ブラジル人選手にとって日本は慣れるかどうかだけ。最初はみんな自動販売機にびっくりするんですよ。そういう機械があることにも驚くけど、ブラジルなら夜中に壊されてお金を盗まれる。日本では大丈夫なことも不思議なんです。食事では、ブラジルは塩・コショウで味をつけるけど、日本は醤油の甘い味付け。これに慣れればいいけど、ダニエルなんかはまだパスタやサラダしか食べない。ブルーノは日本に慣れているから普通に大浴場に入れるけど、マラニョンはパンツを履いて入ろうとする(笑)」。そこを埋めるのも通訳・ジュリオの仕事でもある。言葉が出来るだけでなく、人間性も問われる仕事。「来年もお前が必要」と残留を説得することもあるが、その反面で「選手がいなくなることも多くて、凄く寂しい仕事」と言う面にも耐えなければならない。

 今の甲府にとって代えがたい戦力。それだけにブラジル人選手が先発・ベンチ入りに一人もいないときでもベンチ入りを求められたことがある。普通は、ブラジル人選手に出番が無いときはジュリオもスタンドで試合を見る。空いたベンチ入りの枠には、トレーナーなどメディカルのスタッフを増やすことが一般的。だが、安間監督はジュリオをベンチに入れた。その理由は「ベンチが盛り上がるから」というもの。記者席からは分からないが、たまにピッチで写真を撮るとジュリオの声はうるさいほどよく聞こえるのだ。レフリーの人気投票で1位になる通訳ではないかもしれないが、FC東京の城福浩監督のような感情爆発型コーチがいない甲府ではベンチのダイナモでもあり、まさに闘将・寿莉王(ジュリオ)なのだ。

以上

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2009.05.13 Reported by 松尾潤
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