地域間の対立構造がない日本では、アウェイで試合をするにあたって特別に不利な扱いを受けたと感じたことはない。判定もきわめて公平で、俗に言われる「ホームに有利な笛」というものは日本には存在しないと言っていい。しかし、それでも普段と違う環境という意味では日本にもアウェイ感は存在する。
たとえば、札幌や仙台のように、数と迫力で相手を圧倒するサポーターの前で戦わなければならないスタジアムでは、試合を有利に進めていたとしても、常に押し込まれているような精神状態に追い込まれる。慣れないピッチに、いつものボール回しができないスタジアムもあれば、細かいところで異なる環境に戸惑うスタジアムもある。
そして鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアム。私の知る限り、J2の中では最もハートフルなスタジアムで、アウェイチームをこれほどまでに温かい雰囲気で迎えてくれるところはない。売店やアトラクションがスタジアム前広場に集中しているため、多くの観客がキックオフ直前まで広場でくつろいでいるのも独特の雰囲気。試合前に流れる音楽も激しいものは少なく、鳴門・大塚スポーツパーク全体をのどかな空気が包む。いつ行っても心地よい好天に恵まれているのも気持ちがいい。
そういう意味では、訪れるチームやサポーターにとっては不快感を全く感じないスタジアムと言えるのだが、この雰囲気が福岡にとっては厄介なものになっている。それほど仲がいいわけではない友達の家に行って、予想もしない歓待を受けた時の居心地の悪さと言ったらいいだろうか、なんとも腰が落ち着かない。良くされればされるほど、我を出すわけにもいかずに静かに座っている。そんな感覚とよく似ている。
何も、そんな空気に包まれて選手たちの気合いが削がれているわけではないだろうし、チームのバイオリズムのようなものも影響しているのだろうが、結果として過去の試合内容を振り返ると、福岡は徳島とのアウェイゲームで、あまりいい思い出がない。いつも試合の入り方がうまくいかない印象がある。
実際に、それは結果にも反映している。徳島との昨シーズンまでの通算対戦成績は7勝2分2敗と大きくリードしているが、アウェイゲームに限れば2勝1分2敗とまったくの五分。2007年第32節に3−0で勝利した試合以外は、いずれも内容的に非常に厳しかった思いが残る。なぜか自分たちのサッカーが出来ないままに試合を進めてしまうのだ。スタジアムや試合運営、サポーター、観客の雰囲気など、全くと言っていいほど悪い印象はないのだが、試合をしたくないという意味では、2000年を最後に全く勝たせてくれない西京極陸上競技場に次ぐ存在だ。
そして、徳島とアウェイで戦う第9節。疲労が蓄積していたためか、はたまた、それとは違った理由からか、いつものアウェイでの徳島との対戦と同じように、試合の入り方が悪い。そして試合が徳島の狙い通りに進む中で先制点を奪われた。相手のファウルで得たPKで同点に追いつき流れを引き戻したかに思われたが、つまらないミスから勝ち越され、最後はチャンスを作ったもののゴールは遠かった。結果は1−2で敗戦。これで徳島とのアウェイゲームは、ひとつ負け越すことになった。「やはり徳島でのアウェイゲームは難しいのか…」。一瞬、そんな思いが頭の中をよぎった。
しかし、当り前のことだが、アウェイだから敗れたわけではないだろう。メンバーを大幅に入れ替えて今シーズンに臨む徳島は去年とは別のチーム。8節を終えての成績は3勝3分2敗の7位。しかもホームでは2勝2分と負けていなかった。徳島側から見れば、狙い通りに試合を進め、厳しい時間帯を全員の力で粘り抜いた末の勝利だった。福岡は5試合負けなしだったが内容は改善点も多く、その課題が出た試合だった。「簡単に勝てるチームはどこにもいない」。篠田善之監督はいつも口にするが、改めてJ2のチーム間に力の差がないことを痛感したゲーム。そして、そういうリーグでは、90分間を頑張りきったチームが勝利を掴むということを再認識させられた。
結局、福岡はまだまだ力が足りないということ。ならば、次の試合に向けてトレーニングを積むだけ。それを繰り返すことでチームに力が付いてくる。敗戦のあとのアウェイの帰路は長く遠いが、次は笑いながら帰りたいものだ。
以上
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2009.04.21 Reported by 中倉一志
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遠路はるばる徳島まで駆け付けた福岡サポーター。熱い思いはどこへ行こうと変わらない
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