3月15日（日）J1 第2節 広島 vs 大宮（14:00KICK OFF/広島ビ）
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　今でも、はっきりと覚えている光景がある。2007年10月20日、駒場スタジアム。J1第29節大宮対広島戦の81分に起きたシーン、広島の右サイドをデニス・マルケスが引きさいたことから大宮の先制点が生まれた瞬間だ。
　この時、フリーで放った平野孝（現バンクーバー）のシュートはポストに当たり、こぼれを叩いた小林大悟（現スタバエク）のシュートはＤＦに当たる。しかし、そのこぼれが若林学（現栃木）の前に転がり、シュートはついにゴールを捉えた。「こういう得点が生まれるということは、何か運がある」と小林大が語ったように、このゴールによって敗れた広島は、そのまま、降格への坂道を転がっていく。一方大宮は、最大11ポイント差あった広島との差をこの勝利で2ポイント差まで詰め、次節の横浜FCに勝利したことで逆転。残留を勝ち取った。
　「あの試合で大宮に負けなければ、J1に残留できたかもしれない」
　3月13日の練習後、広島・ペトロヴィッチ監督の口から、こんな言葉が飛び出した。彼の胸には、今もあの試合での屈辱が、トゲのように突き刺さっている。それは「駒場の屈辱」を目撃した全ての広島サポーターも、同じ想いだろう。

　その大宮とホーム開幕戦で闘うことになるペトロヴィッチ監督は、大宮の開幕戦となった対清水戦を観戦、自らスカウティングに乗り出した。その結果として導きだされた結論は、「難しい試合になる」（ペトロヴィッチ監督）ということ。
　「大宮はとてもコンパクトだ。ビッグネームはいないかもしれないが、よく走って、闘ってくる。守備も強く、我慢強く相手のミスを誘ってチャンスをつくる、規律あるチームだ」
　では、大宮に対して、どう闘うのか。指揮官の想いは一つだ。
　「我慢することだ。そして、落ち着いて自分たちのサッカーを表現することにつきる」

　開幕戦の見事な勝利によって、広島のサッカーへの注目度は高まった。大宮戦のチケット売り上げも好調で、サポーターズシートも早々に完売。地元開幕戦としては史上初、リーグ戦としては2007年9月15日の対浦和戦以来の2万人動員も見えてきた。
　プロとして、多くの注目と期待を集めることは喜ばしいこと。だが、それは時として自分を見失うことへとつながりかねない。うまくいかない展開に苛立ち、バランスを崩してまで攻撃に出ようとする。若くて攻撃的なタレントがそろっている広島が、陥りそうな状況だ。そして大宮は、まさにその瞬間を、したたかに狙っている。
　「相手の特徴がどうであれ、広島のサッカーがしっかりとできれば、いい結果は必ず得られる。（大宮のような）守備が強いチームとは、過去何度も闘ってきた。そういう相手でもしっかりと我慢し、わずか５分間だけ訪れたチャンスで得点を重ね、試合を決めたこともある。我々は、そういうことができるチームなのだ」

　デニス・マルケスや小林慶行、パク・ウォンジェといった主力が負傷のため欠場。巨砲ラフリッチのコンディションも万全でない中で、清水から勝点１を奪った大宮の開幕は「結果としては良かった」（大宮・張外龍監督）。新戦力の藤田祥史と２年目の市川雅彦が惜しみなく運動量を発揮し、前線からの守備を敢行。中盤のラインがその動きに連動し、セカンドホールを支配できた闘いぶりは、後方からパスをつなぐ広島のサッカーに対しても、有効に作用しそうだ。さらに、最後尾のマトが強靭なフィジカルと豊富な経験を駆使して大宮のゴールにしっかりと鍵をかける。統率された組織と強力な個を融合した守備は、そう簡単には崩されない。張外龍監督にも、その手応えはあるはずだ。

　試合展開としては、過去の広島対大宮戦同様、ジリジリとした膠着した展開になるだろう。また一方で、80分以降にドラマが起きやすいのも、このカードの特徴だ。
　2005年は2戦とも、後半ロスタイムに生まれたゴールによって広島の勝利。2007年の広島ビッグアーチでの対戦でも89分に駒野友一（現磐田）が決勝点を決めて広島が勝利し、駒場では前述した通りの展開で、大宮が劇的な勝利を収めた。となれば、明日の試合も最後まで、一瞬たりとも目が離せない試合になる可能性が高い。

　ボールを大切につなぎ、ＤＦも積極的に攻撃参加して点をとりにいく広島と、堅牢なゾーンディフェンスを軸に、「ボールを奪ったら７秒でシュートまで」というコンセプトが明確な大宮。異なるサッカー観同士のチームがぶつかり合うことになる2009年度広島ビッグアーチ開幕ゲームは、14時キックオフだ。

以上

2009.03.14 Reported by 中野和也