●第86回天皇杯準々決勝
12/23（土）
13：00/ユアスタ/5,537人
甲府 0−2 札幌
得点:0' オウンゴール（札幌）73' 加賀健一（札幌）
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「いつかは出てくると思っていた」

　甲府の大木監督は３トップに３バックで対応してくるチームの出現を予測していた。天皇杯・準々決勝で対戦する札幌がそのチームとなった。札幌の柳下監督は「J1の試合はリーグの前半は見たけど、後半は見られなかった」と話したが、甲府対川崎Fの天皇杯５回戦のビデオで特徴は掴んでいた。また、12月18日、Jリーグアウォーズで大学の先輩後輩（柳下監督が先輩）の関係である２人は、お互いのサッカーについて話をする時間があった。この会話が決断の後押しをしたのかもしれない。ディフェンスラインで人を余らせないサッカーを貫くことを。

昨シーズンはJ２の舞台で４度戦い２勝１敗１分という結果で札幌が勝ち越した。しかし、J1昇格を巡る第４クールの対戦では２−１とリードしていた札幌は後半のロスタイムに３失点して昇格レースの舞台から降りることになった。一方、甲府はこの勝利で蘇った。このときの甲府は既に４−３−３のシステムで戦っていたが、この日の４−３−３とは選手が違うだけにコンセプトも変わっていた。柳下監督は「甲府の３トップがワイドに張っていて、それに対応するのが難しかったけれど、今日は３人の距離が近いので何とか対応できた」と話した。密集してボールを奪い、密集して局面を突破する甲府のサッカーは、与えられた条件下で（点を取って）勝つために考え抜かれた特殊な戦術。大木監督と甲府の選手にしか出来ないサッカーだ。だから面白いし、赤や青のビッグクラブには出来ないしやらない。柳下監督が上記の印象を持っていたとしても打ち破れるはずだった。しかし、結果は０−２（オウンゴール、加賀）で敗れた。

　前半開始、約50秒で入ってしまった不運（札幌には幸運）なオウンゴールが甲府のサッカーにどう影響したかを、入らなかった場合と比べることが出来ないが、大木監督は「顔が下がったとは思わないが、慌ててしまったところがあるのかなぁという気がした」と言った。札幌の快進撃は勢いだけが理由ではないだろうが、こういうゴールは勢いという見えないパワーにとって大きな栄養になる。前半13本（札幌・４本）、後半５本（札幌・４本）のシュートを打ちながらも、決められなかった甲府。帰国したバレーはともかく、ジョジマールの不在は痛かった。甲府はゴール前にボールを運ぶことは出来る。しかし、そこで高い確率で決定的な仕事ができる日本人FWはいない。ジョジマールはまだ若く、フィジカルの強化など幾つか成長の余地があるが、シュートの上手さは既に群を抜く。また、甲府の有機的なパス回しは常に正常に機能するわけではない。有機的とは、お互いが影響し合った結果。最悪の場合は、寄せ集めになってしまう危険性が伴う。長い芝、足らなかった３人目の動きなどの要因が、甲府を正常な有機体として機能させなかった面があった。
　そういう時に独りで仕事が出来るスーパースターがいない弱みが出る。ともかく、札幌は甲府の来年に向けた修正点を凝縮して教えてくれた。上に強く下に弱い一面も天皇杯では出た。中間管理職なら部下に人気が出そうだが、来シーズンは部下にも厳しい中間管理職を目指したい。そして、ジョジマールは来季に向けて秘匿し、ヴァンフォーレ・有機体・甲府の一員としてリーグ戦にフル投入して、出世に役立って欲しい。

　国立競技場の芝を踏んだことがない甲府。今年の天皇杯は本当にチャンスだった。苦手の新潟を札幌が倒してアシストしてくれ、自分自身でリーグ２位の川崎Fを倒した甲府。正月を東京で迎える流れは出来ていたが、そのチャンスを逃がした。

　一方、札幌はミスで何度もチャンスを相手に与えながらも勝ち続けている。相手に「チャンスに決められなかった」というダメージを与え、焦りを加速させるという意味では素晴らしい効果を発揮している。だが、次の相手（G大阪）は横綱。山梨出身の苦労人の新入幕力士よりは、幅も奥深さもある相手。純情な反応も見せない。柳下監督は、「準決勝は恥かしくないゲームをやるために…」という言葉を使った。「恥かしくない」という言葉は謙遜なのか、冷静に現実を受け止めての言葉なのか。その答えを見るために、エコパ（29日・13時）のG大阪戦は注目したい。

以上

2006.12.24 Reported by 松尾　潤