福岡 2 - 1 新潟(15:04:博多球) 入場者数　13,921人

-現地速報Photoをチェック！This Week Photo-


　何も変わらなかった。

　試合を前にしてピッチで体を動かす選手たち。彼らに声援を送るサポーターたち。そして、1人ベンチで試合開始を待つ反町監督。今までの試合と何も変わらない風景がそこにはあった。

　ただ、彼らを取り巻く環境は劇的な変化を見せていた。多くのマスメディアが新潟の動向を追いかけ過熱する報道。やってきたことは何も変わらなかったはずだ。しかし、反町監督が、試合後の会見で口にした「重圧」は、確実に彼らの上にのしかかっていた。

---

　勝ち点を1つ加えれば得失点差でほぼ昇格が決まるという状況でもあり、反町監督が先発として指名した最終ラインは固い守備を指向しているようにも思えた。もちろんケガや累積という事情もあるのだろうが、福岡にある程度攻め込まれることを想定し、そうした状況に対応させるために守備が計算できる選手を優先的に起用したという背景もあったはずだ。

　試合は、まさにそうした展開を追いかける。中盤を制圧し、左サイドの古賀とアレックスの連携で新潟の右サイドを攻略する福岡。クロスの精度を欠いた部分があったが、それ以外はパーフェクトな崩しだった。

　一方の新潟は前線に残った上野にボールを預けると、できるだけ少ないパス数でシュートレンジまでボールを運んでいた。前半の新潟はこの形が決まっていた。福岡の大型DFとの競り合いの中でも上野はうまく起点となり、ボール支配率では上回られながらも効果的なチャンスを作っていた。

　福岡の重厚な攻め、に対する新潟の鋭いカウンター、という図式の中、先制点は39分に生まれる。右サイドに開いた福嶋にベンチーニョからパスが出ると、新潟の陣形が崩れて中央の守備が手薄になる。ニアサイドに走りこんだ古賀をすり抜けてゴール正面にいたベンチーニョがこれをゴールに蹴りこんだ。

　13,921人を集めた博多の森は、最高の雰囲気で試合を迎えていた。専用スタジアムがもつ一体感と、両チームサポーターが生み出す声援が、締まった試合に花を添えていた。そのスタジアムがホームチームのゴールに揺れた。

　失点直後から後半の立ち上がりの時間帯にかけて、新潟の積極性が前面に出た試合展開となる。特に後半開始直後の新潟の前へのプレッシャーはきついものだった。しかし、福岡も冷静にこれを凌ぎ、徐々にペースを盛り返してくる。

　この試合のポイントの1つは、福岡の守備陣と上野との駆け引きだった。新潟の攻撃の糸口は彼のポストプレーであり、ここの攻防が試合の行方を左右した。前半の立ち上がりの時間帯をのぞけば、福岡の守備陣に沈黙させられてきた上野だったが、後半の69分に1つのポストプレーを成功させた。安から受けたボールを、左のスペースへ送ると、そこに走りこんだファビーニョが見事なボレーを叩き込む。あらゆる交通手段を使って福岡に駆けつけた新潟サポーターに歓喜が訪れた。

　新潟は、そのままで良かった。しかしホーム最終戦の福岡は、違った。首位のチームとの対戦。過去3連敗中という悔しさ。1万人を超える観客。そうした状況が選手に戦う気持ちを与え続けていた。

　福岡のゴールへの思いは86分に結実する。新潟ゴール前でベンチーニョとアレックスが強引にボールを前に運ぼうとする。守備陣の意識が中央に集中する中、ペナルティエリアの外側に居た古賀にボールがこぼれる。距離や角度を考えれば、普通はクロスを狙うポジションだったが、彼はシュートを選択した。

　秋葉が「野澤が取れないのなら仕方ない」と諦めた鋭い弾道のシュートがニアサイドのゴールネットをゆらした。博多の森が三度ゆれた。新潟に追いつく力は残っていなかった。

　昇格を最有力視されていた新潟は、結局ここでも昇格を決めることができなかった。ただし昇格を争う川崎に対して、有利な立場に立っているという状況に変わりはない。引き分け以上の結果で昇格が決まる最終節は、前売り完売のホーム・ビックスワン。舞台は、整った。43試合を戦ってきたチームに残された時間はわずかに90分間。今期、ここまで積み上げてきたすべての思いが最後の90分間に凝縮される。

2003.11.16 Reported by 江藤高志

以上