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【J1:第33節 広島 vs 湘南】レポート:「一丸」となって戦いぬいた広島、湘南の情熱を跳ね返し、優勝戦線にサバイバル (13.12.01)

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広島にとっては、決して楽な戦いではなかった。降格が決まってもなお気持ちを燃えたたせ、90分間走り抜いた湘南の勇姿は、優勝争いの渦中にあるホームチームを、苦しめ抜いた。
決定機といえるほどのシーンは、湘南には存在しなかった。連敗を止めることもできなかった。だが、プロサッカーにおいて大切なのは、勝敗という「結果」だけではない。勝ち負けを求めるのは、アマチュアも同じこと。プロであれば、その勝敗の先にあるものこそ、重要だ。

全力プレーの美しさ。発展途上ではあるが、失敗しても決して止むことのないチャレンジ精神の力強さ。激しさはあるが、相手を傷つけたり、リスペクトを欠くファウルは一切ない潔さ。ひたむきに、ひたむきに。どんなにパスを回されても、プレスをかわされても、湘南は闘った。今は力及ばず、敗れてしまったかもしれない。でも、明日は、その先の未来は、雨ではなく希望の晴天がある。そう信じさせるだけの熱量が、そこにはあった。
試合を通してずっと力一杯声援を続け、圧倒的な数的不利の中でも自分たちの勇士を支え続けたライトグリーンのサポーターたちもまた、偉大だった。彼らは試合終了後、ホームラストマッチということで場内を一周する広島の選手たちに、大きな拍手を贈ってくれた。

森保一監督は、対戦相手を「敵」と呼ぶことはない。サッカーは自分たちだけでできることではなく、対戦してくれる相手チームの存在なくして成立しないことを、指揮官はよく知っている。対戦チームは、憎むべき「敵」ではない。ホイッスルがなれば、握手をかわす「相手」なのである。「きれいごと」かもしれないが、その精神がチームに浸透しているからこそ、33試合で警告29、退場ゼロ。反則ポイント-12(2位仙台は27)、警告なしゲームが16試合という圧倒的な「フェアプレー」を広島は発揮している。湘南のサポーターの振る舞いもやはり、フェアプレーに満ちていた。これが、Jリーグの美しさだ。

広島は、落ち着いていた。たとえば森崎和幸がゴールエリアの近くでプレッシャーをかけられても全く動ぜず、ゴールマウスの前に立つ西川周作に至近距離のバックパスすることで状況を打開したシーンがある。スタジアムがざわめいたこの場面、しかし広島にとっては通常の光景だ。
どんなに圧力をかけられても蹴り出すことはないパス回しは、もはや一編の小説の趣があるが、その根本は仲間を助けようとする気持ちにある。常にいい距離を保ち、ボールを持っている選手の選択肢を確保しようと動く。優勝の希望をかけた大一番でもなお、青山敏弘のゴール後のパフォーマンスで「35」の数字を全員で描いたその想いこそ、広島のベースだ。

今年、厳しいマークをほぼ全てのチームから受けた前年王者は、大きな苦しみを味わった。パス回しにも食いついてこない。最終ラインやボランチにもマンマークがつき、頑にブロックを崩さない。ミキッチの突破に対しても、無理して止めにいかずにプレーを限定させ、中央ではじき返す。広島の攻撃を各チームが徹底研究した結果、広島の1試合平均得点は1.48。昨年の1.85から大きくダウンしてしまった。

だが、それでも崩れなかったのは、守備の安定。湘南戦で14度目の完封を記録し、平均失点0.88。西川周作を中心に鉄壁の守備をつくりあげた。確かに広島の守備陣のフォーメイションは5-4-1で低い位置でブロックをつくり、蟻の這い出る隙間もない。だが、得点の多くはカウンターから生まれる。攻撃の時に5トップになる広島の形であれば、もっと速攻からの失点が増えてもよさそうなものだ。
それを防いでいるのが、全員の高い守備意識である。特に、ボールを失った瞬間から始まる前線の守備は秀逸。佐藤寿人・石原直樹・高萩洋次郎の守備参加は圧巻で、なかでも石原が見せるフィジカルの強さや運動量、粘りが、どれほど後ろの選手を助けたか。抜群の洞察力と一撃必殺のタックルを持つ森崎和の高い守備力も、1トップ2シャドーの頑張りがあればこそ。

そのベースにあるのは、チームメイトを思いあう気持ち。「前が頑張っているから」「後ろの存在に助けられる」。今季、何度も聞いたこの言葉が、広島を2年連続の優勝争いに導いた。その象徴とも言えるのが、青山の得点シーン。塩谷司の球際で必死に頑張ってボールを前に出した、その努力を無駄にしない。そんな決意に満ちた選手会長の一撃が、広島の優勝の可能性をつなぎとめた。
今季での引退を表明した中島浩司について、森保一監督は「常にチームのことを考えて、勇気とチャレンジ精神をもたらしてくれた」と評価。選手たちは口々に「ナカジさんと優勝するんだ」と言い合っている。今季のキャッチフレーズである「一丸」の精神はますます燃え盛り、最後の決戦へとつながっていく。

以上

2013.12.01 Reported by 中野和也
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