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2015/10/29(木)11:40

ファイナルを楽しむ5つのポイント(4)戦術解析:マルチ戦法を操る「似た者同士」

互いにマルチ戦法の使い手で「似た者同士」の対戦に
互いにマルチ戦法の使い手で「似た者同士」の対戦に

ダイレクトプレーの鹿島アントラーズとポゼッションプレーのガンバ大阪――という図式は過去の話。いまや、互いに「速攻と遅攻」「前進守備と後退守備」を併用するマルチ戦法の使い手と言っていい。今季の明治安田生命J1リーグにおける1試合平均(32試合消化時点)のポゼッション率を見ると、鹿島が52・8%、G大阪が50・8%。浦和レッズ(58・9%)や川崎フロンターレ(57・9%)のようにポゼッション志向が強いわけではない。機に臨み、変に応ずる、言わば「似た者同士」か。

ポゼッションよりトランジション(攻守の転換)に強みがある点でも似ている。攻から守、守から攻への高速転換で先手を取り、局面を優位に進めるハードワークが売り物。鹿島の石井 正忠、G大阪の長谷川 健太両監督の哲学、サッカー観がそこに表れている。攻守にアグレッシブなサッカーを求めており、戦術面で「双子」の関係にあると見ていい。互いに戦況判断に優れた司令塔を擁し、攻撃面で幅(両サイドバックの攻撃参加)と深さ(前線の裏抜け)をつくる仕組みも共通したものだ。

システムは互いに4-4-2ボックスがベース。前線をタンデム(縦並び)にした4-2-3-1のオプションもあるが、今季のG大阪は中盤(4人)をひし形に並べた第三の選択肢を持っている点で鹿島と異なる。その場合はドイスボランチの一角を担う遠藤 保仁が「ダイヤモンドヘッド」(トップ下)に陣取り、相棒の今野 泰幸がアンカーとして最終ラインをプロテクトする形となる。もっとも、今回のファイナルでは好調の倉田 秋をトップ下に据えた4-2-3-1が「本線」か。

一発勝負のファイナルだけに、序盤は互いにリスクを嫌った「慎重策」に徹する可能性もゼロではない。だが、両監督の気質を考えると、のっけから球際で激しくファイトするアグレッシブな攻防を求めるのではないか。互いに前から圧力をかけるハイプレスの掛け合いとなれば、ひとつのミスが命取りとなりかねない。反面、ミスを恐れて消極的になれば、相手に主導権をもっていかれる。さじ加減が難しいところだ。立ち上がりの10分が、ひとつのポイントになるかもしれない。

戦力格差や戦術面の差異が小さいミラーゲームでは『個の力』と『セットプレー』が、大きくモノを言う。個の力については、攻撃スタッフにタレントを抱えるチーム同士の争いだけに、誰がメインキャストに躍り出ても不思議はない。問題はセットプレーだろうか。PKや直接FKを含むセットプレーからの得点力は互いに遜色がない。今季のJ1リーグでは、互いに計19得点を記録している。ただし、失点を回避するセットプレーの防御力ではG大阪に一日の長がある。敵のCKが失点につながりやすい鹿島にとっては死角と言える。

膠着状態を打ち破る交代策のバリエーションでは、鹿島がやや有利か。石井監督就任以降、出番に飢えたサブが文字どおりの「ジョーカー」として大仕事をこなすケースが少なくない。先発を固定せず、アタック陣の競争力を煽った指揮官のマネージメントが良い方向に転がっている。逆にG大阪の方は攻撃よりもむしろ、試合をクローズさせる交代策に妙味がありそうだ。攻のカードを切る鹿島、守のカードを切るG大阪、どちらの交代策が勝るか。ゲーム終盤の戦術的な駆け引きが、意外な結末を用意しているかもしれない。


[文:北條 聡]