かつてYoung Gunsとして活躍したJリーグに名を残すレジェンドたちが、自分自身の若手時代と現在の若手選手について語るひととき「Young Guns Talk - legendary edition」。今回はジュビロ磐田でプロデビューを飾り、闘志あふれる激しいプレーで観客を魅了した元日本代表の福西崇史。
今までやってきたこと、練習でできたことが試合でできるかどうか。チャレンジも含めて、そういうことができ始めてくると、自信になる。
──福西さんは、Jリーグでデビューした試合を覚えていますか?
「試合全体を覚えているわけではないですけどね。ただ対戦相手は鹿島で、途中出場というのは覚えています。なかでも一番鮮明に覚えているのは、ピッチに入る時。その時の光景は今でもすごく覚えていますね」
──緊張感はありました?
「緊張感しかなかったですね。同時に試合に出られたっていう嬉しさもありました」
──若手の時はどういう想いでプレーしていたのでしょう?
「まずは必死にくらいついていくということだけですね。もちろん、チームの中心選手になりたいと思ってやっていましたけど、現状では力も足りないですし、やっと試合に出られたという状況ですから。これからどうしていくかとか言えば、上手くなるしかない。そういう気持ちでいましたよ」
──チームの先輩たちのことは、どのように見ていましたか?
「自分の実力というのは理解していたし、その時の磐田には、日本代表もたくさんいて、素晴らしい選手ばかりでしたので、なかなか追いつけなかった。そういうなかで試合に出られたっていうのは成長したと感じる一方で、周りの選手との差はすごくあるなと感じていましたよ」
──若手から主力に定着していくなかで、なにかターニングポイントのようなものはあったのでしょうか。
「ジュビロに入ってからは、上手くならなきゃいけない、試合に出なきゃいけないというのがひとつの目標でした。試合に出られるようになってからは、出続けなきゃいけないし、スタメンとして選んでもらえるような実力を付けないといけない。そうやって自分の目標が高くなっていったことが、大きかったと思います」
──試合に出続けると、今度は結果を残さないといけないというプレッシャーも生まれてくるものですか?
「そうですね。それまでとは違ったプレッシャーが生まれてきましたよ。どれだけチームとして機能できるか。自分がやりたいことを表現できるか。よりプレッシャーは大きくなっていったと思います」
──そのプレッシャーを押しのけられたのは、なにが要因だったのでしょうか?
「自信は大きいと思います。今までやってきたことを出せるかどうか。練習でできたことが試合でできるかどうか。チャレンジも含めて、そういうことができ始めてくると、自信になりますし、もっとできることがあるんじゃないかという考えも生まれてくる。そういうことが成長にもつながっていくのかなと思います」
当時は一人ひとりが、自分のためにというのはもちろんだけど、チームのためにという意識も強かった。
──現役時代に一番お世話になった先輩は誰ですか?
「優先順位は付けられないですね。ただ、僕はプロに入ってからポジションがボランチになったので、その知らない世界をどうやって自分に取り入れていくかという意味では、ドゥンガの影響は非常に大きかったですね。怒られたこともありますけど、怒られるなかで、自分が成長できたところもたくさんある。もちろん、ドゥンガだけじゃなくて、背中で引っ張っていくタイプの先輩もいましたし、自分が成長していくうえで、いろんなことを教えてくれた先輩はたくさんいましたよ」
──ドゥンガはやはり怖かったですか?
「グラウンドの中では本当に怖かったですね。これは怒られた人しか分からないかもしれないですけど、とにかく怖い(笑)。ピッチを離れれば、すごく優しいんですけど、グラウンドの中では、プロ意識というものを厳しく植え付けられたと思います。ただ、怒られないようになれば、自分が認められたっていう結果にもつながりますので、自分の中ではどうやったら怒られないかを考えながらプレーしていましたよ」
──ドゥンガも含め、先輩からかけられた言葉で印象に残っているものはありますか?
「言葉ではないですけど、たとえば中山(雅史)さんは、背中で引っ張っていくタイプで、こういう行動をすることがプロの選手なんだということを教えてくれましたね。中山さんがやってるのに、僕らがやらないわけにはいけないという気持ちになりましたから。名波(浩)さんは、要所、要所でバシッと言ってくれる人でしたね。的確なアドバイスをしてくれましたし、ケアもしてくれした。やっぱり、一人ひとりが、自分のためにというのはもちろんだけど、チームのためにという意識も強かった。そういうところでの関わり合いというのは、当時のジュビロは非常に強かったなと思いますね」
──もし、福西さんが磐田に入っていなかったら、全然違う選手になっていたと思いますか?
「今の僕はないと思いますね。教えられたというか、気づかされたことはたくさんありますし、サッカーの奥深さというのも、このチームに入ったことで知ることができた。自分のスタイルというのも理解することができたので、目指すべきところが明確になった。人間的にも、サッカー選手としても成長させてもらいましたから、ジュビロに入っていなければ今の自分はないと思っています」
コミュニケーションを取れれば、自分はここまでできる、ここはできないというのを理解される。そのなかで課題も出てくると思いますし、求められる部分も明確になる
──今の若手については、どういう印象を持っていますか?
「技術的には、はるかに僕らが若い頃よりも高いし、知識も豊富。レベルはすごく高いなと感じます。ただ、やはり気持ちを伝えるとか、闘争心をもっと出すとか、その部分で言うと、昔のほうがあったなという感じはしますね」
──福西さんは闘争心の塊のような選手だったと思いますが、その意味ではだいぶ物足りなさを感じているのでは?
「もちろん、上手ければ試合に出られるとは思いますけど、やはりサッカーは相手があるスポーツ。上手さだけでは通用しないこともあるだろうし、プロとしてはなにより勝たなければいけない。その部分に関しては、上手さよりも気持ちの部分に左右されることのほうが大きいと思います。自分の場合は上手くないなかで、プロとしてどうやって生きていくかを考えた末に、こんな選手になったというか(笑)。もちろん上手い選手でないのであれば、気持ちを前面に出したほうがいいと思いますし、自分はこうなんだというのを、周りの選手に伝えるのも大事。今の選手は、そういう部分を伝えるのが、あまり上手くないのかなと感じますね」
──今の若手選手にアドバイスをするとすれば?
「僕たちの時と比べるのは、今は時代も環境も違うので、比較するのは難しいかもしれないですけど、やっぱり、サッカーはコミュニケーションが大事だと思います。お互いに納得いくまで自分の考えを伝えられるか。それが伝わらなければ、プレーに大きく影響すると思うので、コミュニケーションはもっと取ったほうがいいと思いますね。コミュニケーションを取れれば、自分はここまでできる、ここはできないというのを理解される。そのなかで課題も出てくると思いますし、求められる部分も明確になると思います。俺はここまでできるんだよという“どや顔”がグラウンドの中に出てくるようになれば、個人の成長にもつながるし、チームももっと活気づくと思いますよね」
──福西さんがベテランと呼ばれる年代になった頃に、チームの中で若手が台頭してきたことを、どう受け止めていました?
「若手の頃は上の人たちを抜かないといけないという想いで、とにかく上だけを見てやってきましたけど、自分も成長して、上の立場になっていけば、チームを強くするためにも、若手に対してしっかりと伝えるべきことは伝えないといけない。ただそれを伝えれば若手が成長するわけで、そこでの競争に負けると自分が試合に出られなくなる。そうなると、自分がそれ以上に、成長しなければいけないという想いになりますよね。そういう危機感は常にありましたから、若手にも伝えるべきことは伝えるし、それに負けじと自分も努力をし続けなければいけないという感じではありました」
──若手の活躍は、ベテランにも刺激になるものですか?
「かなりなると思いますよ。だからどんどん若手が出てきてほしいですし、逆に『先輩、お先に失礼します』っていうくらいの気持ちでいて欲しいですね。それがチームのためにもなるし、ひいては日本のサッカー界のためにもつながると思いますから」
──今の若手を見て昔の自分に似ているなと感じる選手はいますか?
「みんな上手いから、スタイル的には昔の自分という感じの選手はいないですよ。ただ気持ちを出しているなっていうことで言うと、代表でも活躍している井手口(陽介)選手とか、浅野(拓磨)選手は似ているかもしれないですね。自分が結果を出してやるという想いを強く感じますし、もっと上に行ってやるというものも伝わってくる。もちろん、みんなそうした想いは秘めているとは思いますけど、全面的に出ているのは、彼らのような選手だと思います」
若手が成長することによって、全体が成長していく
──今年から始まったTAG Heuer YOUNG GUNS AWARDについては、どう思いますか?
「僕らの時代にもあったらよかったなと思いますね。若手の選手は当然、力のある選手やベテランと言われる選手と比べれば、経験も違うし、実力で敵わない部分はたくさんあると思います。そのなかで成長した部分を評価されるっていうのは、目標にもなるし、自信にもつながるので、いい賞だなと思いますね」
──この賞には「革新は、いつだって若い世代から生まれる」というキャッチコピーがあります。この言葉についてはどう思いますか?
「若い選手が引っ張っていくというのは言い過ぎかもしれないですけど、世代交代も含めて上の人を抜いていかないといけないし、若手が成長していくことで、より上の年齢の選手たちにも刺激になっていく。つまり、若手が成長することによって、全体が成長していくという意味が、このコピーには含まれているのかなと感じますね」
──福西さんが若い時に、革新を生み出せたと思うことはありましたか?
「自分のことで必死でしたからね。自分のことを考える割合が大きかったですし、そのなかで少しずつ余裕できてくれば、チームのことを考える時間も増えてきましたけど。基本的には自分のことで精一杯なんで、それがチームのためになっているとか、革新を生み出すとか、そこまでは考えられなかったですね」
──こういう賞は、選手にとってモチベーションになるものですか?
「かなりなると思いますね。プロとして、しっかりとパフォーマンスをするっていうのは当たり前ですが、そのなかでひとつの目標が生まれるってことは、非常にいいことだと思います」