Jリーグのオフィシャルテーマソングである「J'S THEME」は、1993年5月15日、満員の国立競技場で初めて演奏された。新たな歴史の幕開けを演出し、その後も試合会場やセレモニーなどでもBGMとして使用されている。今なお色褪せることなく、Jリーグを盛り上げるこのテーマソングを生み出したギタリストの春畑道哉さんに、当時の心境、楽曲制作の秘話、そして25年の歴史を重ねた今のJリーグに対する想いを伺った。
- 25年前の5月15日、国立競技場のピッチに立った時の心境を、改めて聞かせてください。
- 「何か月も前からレコーディングスタッフや、開幕戦を運営される方々と何度も打ち合わせを重ねて音作りをしていたので、その日が来るのをカウントダウンのように待ちわびていました。すごく興奮していましたし、緊張感と高揚感が同時に湧いてきました。今振り返ってもあの日は、凄い1日でしたね。ついにこの日からJリーグがスタートするんだなって。それまでにチェアマンの川淵(三郎)さんから百年構想とか、大きなプランを聞かされていたので、ついにそのスタートの日が来たのかと思うと、感慨深かったですね」
- 試合前のピッチ上で演奏するという経験はいかがでしたか?
- 「TUBEでスタジアムでのコンサートは毎年経験していたんですけど、ちょっと規模が違いましたね。360度、お客さんに囲まれて、しかも6万人もいましたから。音の感じやお客さんの声の迫力も普段とは違い、本当に鳥肌が立ちました」
- そもそも、どういう経緯でJリーグのテーマ曲を作ることになったのでしょうか?
- 「プロ野球のようにサッカーがプロ化されて、世の中に浸透するものになっていく。そのテーマソングを作らせて頂けると聞かされた時は、責任重大だなと思いました。Jリーグが続く限り、ずっと流れる曲ということだったので、本当に僕で大丈夫ですかという気持ちはありましたし、プレッシャーももちろんありました。一方で、大御所のギタリストがたくさんいるなか、僕を選んでいただいて光栄だと感じましたし、本当にうれしいチャレンジでした」
- テーマソングとなった「J'S THEME」はどのように作られていったのでしょうか?
- 「最初は海外のサッカーのビデオを見たりしながら、僕が思い描いていたサッカーのイメージで作っていきました。攻撃的でスピーディで、熱い感じの曲にしたいと。そこで出来上がったのが『BORN TO WIN』という曲だったんですけど、その後に実際に試合を観戦させていただいて、それだけじゃないなと思いまして。一番感じたのは選手とサポーターとの絆です。負けても応援し続けていくというサポーターの姿を見たことで、エキサイティングな曲調だけでは表現できないと感じました。そこでゆったりとした感動的な曲にしようと思い『J'S BALLAD』という曲ができたんです」
- 『J'S BALLAD』が先にできていたんですね。
- 「そうですね。ただ、その後に、もっとポジティブで未来を感じさせるようなイメージにしたいという話があるなかで、ビートが力強くなって、それが『J'S THEME』になりました。『J'S BALLAD』とはテンポは一緒なんですけど、リズムの作り方を変えたんです」
- 『J'S THEME』はどれくらいの期間で作られたんですか?
- 「どれくらいだったかなぁ? たぶん、開幕の1年前くらいにはお話があったと思います」
- どのような想いがこのテーマソングには込められているのでしょうか?
- 「川淵さんからJリーグに込められた様々な想いをお聞きするなかで、“スポーツを通しての明るい社会”というものを自分なりにイメージしました。また、子どもたちが育っていく中で、未来をイメージした、色褪せないようなものにしたいという想いもありました」
- あの開幕戦のあと、何か変化はありましたか?
- 「あの日は、こんな歴史的な日はないと、自分の家族も見に来てくれたんですね。『すごいことやらせてもらったね』と言ってくれました。変化という意味では、スポーツとインストミュージック(歌のない楽器だけで演奏された曲)の関係性を認識してもらって、プロ野球中継の音楽を作らせてもらいました。Jリーグのサポーターの方が、コンサートに来てくれたこともありました」
- それまではサッカーにあまり接点がなかったと思いますが、以降はJリーグにどのように関わってきたのでしょうか?
- 「僕は町田市出身なんですが、25年前にはなかったクラブチームが地元にできたので、観戦に行かせていただいています。一度、クラブの方にご挨拶させていただいたら、高校の先輩だったんです。『あれ、TUBEのほうが年上だと思っていた』と言われたんですが(笑)、そうした身近な方が地元のクラブに携わっているのは嬉しいことですね。J1に上がってほしいなという想いがありますが、今はまだその条件を満たしていないようなので、僕もなにか協力できたらという気持ちもあります」
- 地域密着というJリーグの理念を実感されているわけですね。
- 「そうですね。地域のチームをみんなで応援していって、一緒に育っていきたいという想いを、町田の街からも感じることができています」
- 25年前と今で、Jリーグが変わってきたと感じるところはありますか?
- 「偶然なんですけど、昔からの友人がヴィッセル神戸の担当をしていまして、ユースチームの宿舎を見学させてもらったんです。地域の中から子どもが育っていける環境ができているのを目の当たりにして、本当に素晴らしいことだなと思いました」
- 当初は10だったクラブの数も、25年が経ち54にまで増えました。
- 「本当に、当時の想いが実現しているわけですから、関わらせていただいた僕としても嬉しいこと。すべての都道府県にJリーグのクラブができればいいですね」
- ちなみに、『J'S THEME』を試合前に演奏してほしいという要望はあったりするんですか?
- 「昨年は横浜F・マリノスでやらせていただきましたし、他にも何回か演奏させていただいています。この曲を直接届けることができて嬉しく思いますし、お話を頂けたらタイミングさえ合えばどこでも行きたいと思っています」
- 25年を迎えるにあたり、今回『J'S THEME』をリアレンジされましたが、新たにどういった要素が加わったのでしょうか?
- 「リアレンジって結構危険なんですよ。オリジナルへの想いが強い方が聴くと、変わってしまったのかとがっかりされてしまうので。だからテーマとして、“変わるもの”と“変わらないもの”というものがあったんですけど、ギターのプレーは変えないように忠実に弾いて、それ以外のサウンド作りを変えています。例えば25年前になかったシンセの音源を取り入れたり、スタンダードなドラムだったものを、当時にはなかったビートに変えてみたり。ベースもアクティブなイメージに変えたりと、テンポとサイズは同じなんですが、メロディ以外の部分で新しさを表現しています」
- どういったイメージで作られたのでしょうか?
- 「25年が経ち、クラブ数が増えたりと、Jリーグも変わっていますから、今のJリーグに合わせつつ、これから先、未来につながっていくというようなイメージも含まれています。やっぱり、今の流行りを追いかけてしまうと、2、3年後には懐かしいね、と思われてしまう。そうなるのが嫌だったので、おそらく数年後に聴いてもスタンダードとして受け入れられるような作り方を意識しました。あと、レコーディング前に浦和レッズの試合を観に行かせて頂いたんですが、その時に、スタジアムの周りでボールを蹴っている親子がいたんですね。その姿を見て、純粋にいいなあと思ったんです。サッカーが生活の一部になっているというか、おそらくそれは25年前にはなかった光景でしょう。その印象が残るなかでレコーディングに入ったので、そこで感じたイメージも、今回の曲には含まれているのかなと思います」
- 25年ごとにリアレンジされていくというお話も聞きましたが。
- 「今回、Jリーグの方とミーティングを重ねているうちに、そういうアイデアが出てきまして。なので、50周年の時にもまた新しい『J'S THEME』を作れたらいいですね。まだ生きてるかな(笑)。でも、25年後にまた出せたら嬉しいですし、Jリーグのこれからの25年も楽しみにしています」
- 「もしJリーグがなかったら」、春畑さんの人生や生活はどのようなものになっていたと想像されますか?
- 「実は、Jリーグのおかげで、『J'S THEME』をきっかけに、その後のソロの音楽の方向性が確立された部分があります。具体的に言うと、もっとメロディを重視した音楽を作ろうと思うようになりました。それまでは、ソロの作品はいつも実験的なことに挑戦することが多く、流行りのビートを取り入れたり、気の向くままに作っているところがありました。それはある意味で、自己満足の繰り返しだったのかもしれません。でも『J'S THEME』を作ったことで、自分はこういう音楽が作りたかったんだという、ひとつの道が見えたんです。このような大きなプロジェクトに携わらせてもらい、多くの方と何度も打ち合わせを繰り返して、ようやく出来上がった曲ですから、自分のなかでも重要な曲になったと思いますし、すごく大切にしている曲。この『J'S THEME』あるから、その後の自分があるのだと思います」
■ 春畑道哉 『 J‘S THEME (Jのテーマ)25th ver.』先行配信中!
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■ 春畑道哉 Jリーグ25周年記念アルバム『 J'S THEME 〜Thanks 25th Anniversary 〜 』2018.08.22 リリース
https://smar.lnk.to/6y1gDWN
■ 春畑道哉 オフィシャルHP
http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata/